アン=カトリン・ベルガー:がんに打ち勝ってワールドカップに乗り込んだドイツのゴールキーパー
すべてのワールドカップにはストーリーがある。ドイツ代表でチェルシーに所属するゴールキーパー、アン=カトリン・ベルガーは甲状腺がんに2度打ち勝ち、今大会ではドイツ代表のサブメンバーとして戦った。
アン=カトリン・ベルガーは、そのサッカーキャリアにおいて、きわめて高い頂点ときわめて落ち込む状況とを耐え抜いている。がんの治療を受けながら、最高峰の優勝トロフィーを目指してプレーしたのだ。
ワールドカップの代表チームに選ばれる選手はひとにぎりで、同じシーズン内のリーグ戦とカップ戦の両方で優勝し(これを「ダブル」という)、その後ワールドカップの代表メンバーに選ばれる選手はさらに少ない。だが、アン=カトリン・ベルガーはそんな少数の一人であり、しかも、がんに2度打ち勝っている。
アン=カトリン・ベルガーがはじめて甲状腺がんの診断を受けたのは2017年11月のことで、当時はバーミンガム・シティでプレーしていた。
がんという大きな障害が立ちはだかったにもかかわらず、ベルガーはタフな精神力を維持して周囲を驚かせる早さで復帰を果たし、2017-2018年シーズンのPFA年間ベストイレブンに選ばれた。
バーミンガム・シティでの勇ましい活躍が評価され、ベルガーはエマ・ヘイズ監督率いるチェルシーに2019年1月に移籍する。このころには病気から完全に回復しており、チェルシーがウィメンズ・スーパーリーグ(イングランドの女子サッカー最上位リーグ、WSL)の頂点に返り咲くため、そのゴールを守りぬく万全の準備がととのっていた。
2019年にチェルシーに加入してから、ベルガーはこのクラブに不可欠なメンバーとして勝利に貢献した。クラブはWSLを4年連続で優勝し、FA女子リーグカップの2度の優勝と、FA女子カップの3度の優勝(2020-2021年シーズンから3年連続)を経験している。
チェルシーの守護神としての高い能力が認められ、ベルガーはドイツの代表チームに招集される。UEFA欧州女子選手権2022のときだった。
代表チームへの招集を受けて、サッカー選手としてのキャリアの高みを経験したベルガー。だが、それとほぼ時を同じくして、彼女はもう二度と聞きたくないと思っていた知らせに触れることになる。一度は治った甲状腺がんが、4年後に再発したのである。
彼女は7月3日に代表チームに合流し、7月5日に年1回の定期検査を受けたのだった。
ベルガーは体の異変を知ると、欧州選手権もようやく後半になってから、そのことをチームメイトに打ち明けた。その後8月、甲状腺がんの再発を世間に公表したのである。
奇跡というべきか、がん再発を公表したわずか1ヶ月後、ベルガーはチェルシーのチームメイトに再び合流、WSLのマンチェスター・シティ戦に出場した。
復帰後のベルガーはチェルシーゴールの守護神でありつづけ、がん再発の公表から7ヶ月後、UEFA女子チャンピオンズリーグのリヨン戦ではPK戦で2本とめ、準決勝進出の立役者にもなった。
次のシーズンもチェルシーで充実の活躍を見せたあと、ベルガーはワールドカップの初めての舞台をオーストラリアとニュージーランドで経験した。
逆境にありながらもトロフィーを目指して努力するアン=カトリン・ベルガーのストーリーは、多くの人を励ましている。
しかし、勝負の世界はきびしい。予選H組の初戦のモロッコを6-0で下したドイツ代表だったが、7月30日にコロンビアに1-2で負け、8月3日の韓国戦を引き分けで終え、決勝トーナメント進出を逃した。ドイツのゴールキーパーとして出場したのは3試合ともマール・フロームスで、アン=カトリン・ベルガーの出場機会はなかった。