逆境を乗り越えて金メダルを手にしたウクライナ女子陸上選手、ヤロスラワ・マフチフ
さまざまな感動をもたらしたパリオリンピックが現地時間11日に閉幕した。なかでも、8月4日(現地時間)に行われた陸上女子走り高跳びの決勝では、戦火に苦しむウクライナ選手がみごと優勝を手にして多くの人々に感銘を与えた。
有力な選手が揃ってきわめて高レベルな戦いとなった走り高跳び決勝で、優勝を果たしたのはウクライナのヤロスラワ・マフチフ選手だ。
マフチフは7月に2.1mという記録を出して37年ぶりに世界記録を更新した選手で、オリンピックでも優勝候補の筆頭だった。これまでのオリンピックにおける自己記録は2.00mだ。
マフチフは今なお戦火に燃える祖国ウクライナを背負って戦っており、今回の優勝は個人的栄誉以上の象徴的な意味もあるものだ。マフチフはオリンピック開幕に先立つ7月に、英紙『ガーディアン』にこう語っている:「ウクライナが金メダルを取ることがあれば、それはウクライナが決して諦めずに戦い続けるという意思を世界に示すことになるでしょう」
惜しくも2位となったのがオーストラリアのニコラ・オリスラガーズだ。オリスラガーズも今年に入ってから優れた成績を収め続けており、マフチフが世界記録を更新した大会以外では負け知らずだった。オリンピックでも最終的な記録はマフチフと並んだが、試行回数の差で銀メダルとなった。
そのオリスラガーズも、昨年9月に出した個人記録は2.03mと今回の優勝記録を上回るものだった。オリンピックは非常に高レベルな接戦だったと言えるだろう。
3位となったウクライナのイリーナ・ゲラシチェンコも優勝候補と目されていた選手だ。「World Athletics」によると過去の記録では平均1.94m跳んでおり、今回のオリンピックでも1.95mという記録を残した。
ゲラシチェンコと同じく3位となったのがオーストラリアのエレノール・パターソンだ。パターソンは2022年には世界チャンピオンとなったほか、2度のオリンピック出場歴も持つベテランだ。最近わずかに調子を落としてきていたが、オリンピックでは力を取り戻し銅メダルをつかんだ。
続く5位となったのはアメリカのカリスマ、ヴァシュティ・カニンガム。カニンガムは室内大会で2mを跳んだこともあり、今大会でもメダルを期待されていたが惜しくも一歩届かなかった。ちなみに、ヴァシュティ・カニンガムはかつてNFLのフィラデルフィア・イーグルスでクォーターバックを務めていたランダル・カニンガムの娘で、兄のランダル・カニンガム②世も走り高跳びの選手だ。
6位はドイツのクリスティナ・ホンゼルだった。昨年の成績は振るわなかったが、今年に入ってからは1.95mという記録を出しており、調子を取り戻しつつあった。オリンピックでもその記録に並ぶ1.95mを跳んで6位となった。
もう1人、優勝候補と目されていたのがセルビアのアンゲリナ・トピッチだ。トピッチはオリンピック級アスリートの家系の出身で、母ビリャナはセルビアの3段跳び国内記録を保持しオリンピックにも3度出場、父ドラグティンはオリンピックに6度出場、高跳びのヨーロッパ記録元保持者、そしてセルビアでの国内記録保持者でもあると、錚々たる記録の持ち主だ。
そのアンゲリナは開会式の日に19歳となったばかりの若手選手で、父のコーチのもとめきめきと頭角を現しつつある。オリンピック前の個人ベストは1.98mだった。今回のオリンピックでも活躍が期待されたのだが、残念ながら棄権となってしまった。
こうして走り高跳びの金メダルはウクライナのマフチフがつかんだ。同じくウクライナのゲラシチェンコも3位となっており、マフチフが語っていたように、逆境に負けないウクライナの人々の強さを世界に示すことができたと言えるだろう。