パリ五輪のサーフィン会場、タヒチ島(仏領ポリネシア)をめぐる論争とは

サーフィン会場となったタヒチ島(仏領ポリネシア)
世界有数の波乗りスポット
危険な荒波が特徴
パリからもっとも遠い会場
会場候補地は他にもあった
フランス海外県も巻き込んだオリンピック
会場整備の計画が議論の的に
パリ市のアンヌ・イダルゴ市長はテアフポオ訪問を中止
反対運動の先頭に立ったサーファーのマタヒ・ドローレ
サンゴ礁への影響と反植民地運動
地域文化と生態系
「波を生み出す仕組みも損なわれるおそれ」
シガテラ中毒
絶滅の危機に瀕する魚類やサンゴ
当初の計画を縮小
「環境への影響は最小限」
コンパクトかつ耐久性も高い
サンゴと新しい塔
「タヒチの自治体が行った投資」
閉幕後の利用法
サーフィン会場となったタヒチ島(仏領ポリネシア)

エッフェル塔が見下ろすパリ市内やパリ近郊のヴェルサイユ宮殿などがおもな競技の会場となっているパリオリンピックだが、サーフィン競技は南太平洋に浮かぶタヒチ島(仏領ポリネシア)で行われた。

 

世界有数の波乗りスポット

タヒチ島(仏領ポリネシア)のテアフポオはサーフィンに適した波が美しい海岸に押し寄せる世界有数の波乗りスポットであり、サーファーたちの間でもよく知られている。

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危険な荒波が特徴

実際、テアフポオは2013年に、CNN放送が選んだサーフィンスポットのベスト50で3位にランクインしている。海岸の距離は長くないものの、難易度の高い荒波が特徴で、サーファーの冒険心に火をつけるのだ。ちなみに、「テアフポオ」とは現地語で「頭蓋骨の場所」を意味し、本来は近辺で起きた戦いに由来する地名だが、現在では危険な荒波と結びつけて解釈されることも多い。

パリからもっとも遠い会場

タヒチ島はパリから1万5,600キロメートルも離れており、飛行機でも21時間かかる。実際、オリンピック史上、もっとも遠い会場のひとつだ。パリ五輪組織委員会のトニー・エスタンゲ会長は2022年にこの地を訪問し、サーフィン会場として競技を盛り上げてくれるに違いないと太鼓判を押した。

会場候補地は他にもあった

「フランス24」放送によれば、サーフィン会場の候補地は他にもあったらしい。フランス本土のビアリッツやラカノー、カップブルトンといったサーフィンの名所も検討されたが、結局、タヒチ島のテアフポオに決まったとのこと。

写真はタヒチ島にやってきた聖火を運ぶサーファーのヴァヒネ・フィエロ

 

フランス海外県も巻き込んだオリンピック

タヒチ島をパリ五輪のサーフィン会場にするという決定は、この祭典をフランス領全体で盛り上げたいという主催者の意向が反映されたものだ。

写真はトニー・エスタンゲ会長(左)とタヒチ島でサーフィン会場の責任者を務めるバルバラ・マルタン=ニオ氏(右)

会場整備の計画が議論の的に

オリンピック主催者は当初、テアフポオの浅瀬に設置されている木製の塔(写真)を高さ14メートルのアルミ製の構造物に建て替えると発表。これが賛否両論を巻き起こすこととなった。

 

 

パリ市のアンヌ・イダルゴ市長はテアフポオ訪問を中止

『ラ・ナシオン』紙によれば、昨年10月にタヒチ島を公式訪問していたパリ市のアンヌ・イダルゴ市長は、五輪会場整備をめぐる緊張の高まりを受けて、テアウポオ訪問を取りやめたという。

 

反対運動の先頭に立ったサーファーのマタヒ・ドローレ

同放送いわく、塔の建て替えに反対する運動で先頭に立ったのはテアフポオ出身のサーファー、マタヒ・ドローレ(写真)だった。仏領ポリネシアのモエタイ・ブラザーソン自治大統領に対し、現地を訪れるよう働きかけ、地元住民が大切にしている豊かな生態系をその目で確かめるよう求めたのだ。

サンゴ礁への影響と反植民地運動

反対派の一部はアルミ製の塔を植民地主義のシンボルとみなし、主催者側がSDGsを無視していると批判。CNN放送の記事によれば、ハリド・ビン・スルタン・リビング・オーシャンズ財団のCEO、アレクサンドラ・デンプシー氏はサンゴ礁に対する悪影響について懸念を表明していたそうだ。

 

地域文化と生態系

デンプシー氏いわく:「地元のコミュニティは波を生み出す海やサンゴ礁と文化的に深く結びついています。サーフィンに最適な波はサンゴ礁が何百万年もかけて作り上げた、大自然の産物なのです」

「波を生み出す仕組みも損なわれるおそれ」

同氏はさらに、「サンゴ礁の生態系が損なわれるだけではありません。この場所が(サーフィン会場として)選ばれたのは波のおかげですが、その波を生み出す仕組みも損なわれてしまうのです。サンゴ礁を傷つけてしまえば、どのような影響が出るかわかりません」とコメント。

 

 

シガテラ中毒

一方、環境活動家や地元の漁師らはサンゴ礁の掘削によって有毒プランクトンが増殖し、魚介類が汚染されることで、それを食べる人々の間でシガテラ中毒が広がるのではないかと懸念。ユーロニュース放送によれば、地域住民の多くは海産物を食べて暮らしているとのこと。

 

絶滅の危機に瀕する魚類やサンゴ

タヒチ観光局によれば、フランス領ポリネシアには1,000種あまりの魚類と150種あまりのサンゴが暮らしているそうだ。これらのサンゴは気候変動や観光業の大規模化によって絶滅の危機に瀕しており、保護の対象となっている。

 

当初の計画を縮小

これに対し、主催者側は既存の塔の補強や新たな木製の塔の建設、あるいは競技の審判が地上または船上から判定するという案も検討した結果、当初の計画よりも小さなアルミ製の塔を建てることにした。

 

 

「環境への影響は最小限」

なお、主催者側のプレスリリースでは、テアフポオでの会場整備は環境への影響を最小限に抑えるよう考えられており、新たな塔の建設にあたっては専門的な調査が行われたことが強調されている。

 

コンパクトかつ耐久性も高い

パリオリンピックの主催者によれば、新たな塔はしっかりとした基礎の上に建てられており、小型で軽量だが耐久性も高いため、五輪閉幕後もさまざまなイベントに利用できるとのこと。

サンゴと新しい塔

主催者いわく:「以前の塔のコンクリート製構造物はすでにサンゴに覆われています。また、新たな塔はオリンピック専用のものではありません。この構造物は折り畳み式で、毎年、イベント期間中に設置することができるのです」

 

「タヒチの自治体が行った投資」

「タヒチ島内で設計、製造されたこのアルミ製構造物は保険や安全性に関する認証もクリアしています。これはテアフポオで今後20年間にわたってサーフィンイベントを開催するため、タヒチの自治体が行った投資なのです」

 

 

閉幕後の利用法

また、五輪公式サイト「Olympics.com」はこれについて次のように説明している:「テアウポオの会場では引き続き、サーフィン世界選手権が開催されます。また、オリンピック用の小規模な施設は閉幕後に撤去されます。選手村はポリネシアの伝統建築「ファレ」を模した構造になっており、(大会終了後は)公営住宅として移転・再設置され、地域社会に貢献することになっています」

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