イタリア自転車競技界のレジェンドに有罪判決
1967年3月22日イタリア北部のルッカに生まれたマリオ・チポリーニ。1989年にイタリアのチーム「デル・トンゴ」の一員としてプロデビュー、その年のジロ・デ・イタリアでいきなりステージ優勝と衝撃的なデビューを果たした。
「ライオン・キング」「スーパー・マリオ」とも呼ばれるチポリーニはその後、ジロ・デ・イタリアで42勝を挙げ、アルフレッド・ビンダの記録を破って通算最多勝記録を達成。
1989年から2005年までの現役時代の成績は通算189勝。前述の記録の他にもトゥール・ド・フランス区間優勝13勝やミラノ~サンレモ(2002)優勝、世界選手権(2002)優勝など華々しい。
優勝記録以外にも印象的なのが、1999年7月7日に達成した速度記録だ。この日、チポリーニはトゥール・ド・フランスの直線区間で時速50.355kmを出し、新記録を達成している。
立派な成績を誇るチポリーニだが、血の気が多いことでも有名で、2000年のブエルタ・ア・エスパーニャではフランシスコ・セレソ(写真)と乱闘騒ぎを起こしたことも。この事件の結果チポリーニは出場停止処分およびセレソへの賠償金100万ペセタ(約6,000ユーロ)を支払うことになった。
2005年、ジロ・デ・イタリア直前に引退を発表。2008年にチーム「ロックレーシング」と契約していっとき復帰したこともあったが、数カ月後に今度こそほんとうに引退した。
そんなチポリーニだが、2022年10月17日、前妻サブリナ・ランドゥッチ及びその現夫シルヴィオ・ジュスティに対する虐待、傷害、脅迫の罪で有罪とされ、2年半の収監を宣告されている。
判決は故郷ルッカの裁判所で、フェリチア・バルビエリ裁判長が下した。刑の内訳は前妻への傷害で2年、ジュスティへの傷害で6ヶ月とされている。
一審での判決はさらに、チポリーニに対して前妻に8万ユーロ、ジュスティに5千ユーロの賠償金も課している。
写真:Instagram @landuccisabrina
判決が出た2022年10月17日は前妻のサブリナ・ランドゥッチにとって「悪夢の終わり」になったという。判決直後のコメントとして伊スポーツ紙『ガゼッタ・デロ・スポルト』が伝えている。
ランドゥッチはあるテレビ番組でこう語っている:「今回の判決と勝訴は嬉しく思います。もちろん、『勝利』と呼ぶにはあまりにも辛い出来事でしたが。道のりは険しく、裁判の過程で傷つくことも多くありました」伊紙『イル・メッサジェッロ』が伝えた。
写真:Youtube
ランドゥッチが最初にチポリーニから被った暴力を告発したのは数年前で、今回の判決は一連の問題が一応の終結を迎えたというに過ぎない。2019年に出された告発文では次のように書かれていた:「一連の身体的・精神的暴力においては殴打や平手打ち、蹴りなどが行われ負傷したほか、殺害を仄めかされることもあった」
そういった事象の中でももっともひどかったのは2016年12月及び2017年1月6日に行われたもので、チポリーニがランドゥッチの職場で公然と暴力を振るったのだという。ランドゥッチは伊紙『コリエーレ・デラ・セラ』にこう語っている:「私はほとんど毎日スポーツセンターで働いているのですが、マリオは同僚や客の見ている前で私を襲ったのです」
ランドゥッチはこう続けている:「マリオは私の首を掴んで、顔を壁に押し付けました。怪我をして強い痛みが残り、救急病院に行きました。今でもショックから抜け出せていません」
裁判の過程ではほかにも多くの暴力行為が明るみに出された。ある時などは銃を持ち出してランドゥッチを脅したこともあったという。
7年間にわたる裁判の間に、チポリーニによる殺害予告が複数回あったことも指摘された。
チポリーニがランドゥッチと結婚したのは1993年で、2005年に離婚した。ふたりのあいだには娘がふたりいる(写真)。
写真:Instagram @mario_cipollini
離婚の原因はチポリーニがモデルのマグダ・ゴメス(写真)と不倫したことだと言われている。復縁を試みたこともあったが、うまく行かなかった。
イタリアのテレビでランドゥッチはこう語っている:「もう事態は私の手には負えないということに気づいたんです。怖くなったし、言うべきことは言ったので、出ていきました」
チポリーニの弁護士は次のようにコメントしている:「これは出発点に過ぎません。判決を精査した後、控訴の手続きに入ります」
チポリーニは姉のティチアナ・チポリーニからも同じ理由で訴えられている。訴えによると、2017年4月、マリオはティチアナと言い争いになり、手首を掴んで頭部を殴打したのだという。
ただし、この訴えは2020年2月に取り下げられ、裁判も終結している。
かつてはイタリア自転車競技界のヒーローだったマリオ・チポリーニだが、最近はその暗い側面が浮き彫りになってきている。それでも、チポリーニの肩を持つかつてのファンはいまだに少なくない。
写真:Instagram @mario_cipollini