メンタルヘルスで苦闘する新体操女王、シモーネ・バイルズ

一流アスリートたちの宿命
「あの場所には立てない」
悪魔との闘い
シモーネに何があったのか?
虐待の爪痕
コーチの皮を被った……
虐待について声を上げる
深刻な問題
ADHD(注意欠陥・多動性障害)
幼少期から才能の片鱗を見せる
厳しいトレーニング
トレーニングは週30時間以上
No.1のプレッシャー
スポーツ選手とメンタルヘルス
うつ病を打ち明けた大坂なおみ
マイケル・フェルプスとうつ病
「世界の重みが両肩にのしかかっている」
ケガのリスク
メンタルヘルス改善の取り組み
復帰の時期は不透明
一流アスリートたちの宿命

身体的にも精神的にも大きな試練にさらされる一流アスリートたち。重圧に押しつぶされる選手の悲劇はしばしば話題になるが、なかでもシモーネ・バイルズのケースは痛ましいものがある。新体操でトップに登りつめたシモーネはなぜ、キャリアのピークで引退に追い込まれてしまったのか、彼女の人生を追ってゆくことにしよう。 

 

 

「あの場所には立てない」

決勝戦のマットに足を踏み入れたものの、演技を披露する前に棄権してしまったシモーネ。「あの場所には立てない」とコーチに打ち明けた言葉は、世界中に中継されることとなった。さらなる五輪メダル獲得を狙い、自身が打ち立てた驚異的な記録を塗り替えようとする矢先の出来事だった。この事態に世界中のファンたちは驚きを隠せなかったが、後になってシモーネ本人がマスコミ向けに説明をすることとなった。

 

悪魔との闘い

マスコミの取材に対し、シモーネは単刀直入にこう語っている:「私はもう自分が信じられません。メンタルヘルスの改善に取り組まなくてはならないんです。ひとたびマットに足を踏み入れば、そこにあるのは私自身と自分の頭だけ。頭の中で悪魔と闘っているんです」

 

シモーネに何があったのか?

では、この希代の体操選手に一体なにがあったのだろう? 「頭の中の悪魔」とはどのようなものなのだろうか? そもそも、シモーネは革新的なテクニックで新体操界を一変させ、25歳にして5度もワールドチャンピオンとなっているのだ。そして、そのうち3度は連覇記録であり、今後もしばらく破られることはなさそうだ。

 

虐待の爪痕

シモーネの人生は最初から順風満帆とはゆかなかった。両親ともに依存症に悩まされていたため、幼いシモーネの面倒を見たのは祖父母だったという。6歳のときに新体操に出会うと一気にのめり込み、必死になって練習に打ち込んだようだ。ところが、プロとしてのキャリアの幕開けは虐待のはじまりでもあったのだ。

コーチの皮を被った……

シモーネもまた、多くの女子選手を虐待したことで悪名高いコーチ、ラリー・ナサールの被害に遭ってしまったのだ。彼は担当選手250人に対する性的虐待容疑で起訴され、禁固60年を言い渡されている。シモーネはこの裁判に積極的に関わることはしなかったが、困難を経験したことは間違いない。実際、Twitter上では、ナサールによる虐待で苦しんだことを打ち明けている。

 

虐待について声を上げる

シモーネは2018年にTwitterでこうコメントしている:「私は元気で明るいハッピーな女性だと思われがちです。でも、最近は自分が壊れてしまっているように感じていました。心の声を抑えようとすればするほど、大きくなるんです。もう、自分の話を隠すのはやめにします」

 

深刻な問題

性的虐待の被害を打ち明けるシモーネの言葉からも、プライベートに深刻な問題を抱えていることが窺われる。

 

ADHD(注意欠陥・多動性障害)

虐待被害の事実が公になる前にも、ADHD(注意欠陥・多動性障害)の治療薬を服用していることを明かさなければならなかった。というのも、2016年に彼女のカルテがハッキングの被害に遭った際、ADHD治療薬がドーピングに当たるのではという疑惑を生んでしまったためだ。

 

幼少期から才能の片鱗を見せる

幼いころからシモーネの才能は突出していた。8歳のシモーネを見出したコーチは、年齢に見合わないほど完璧なトレーニングぶりに驚きを隠せなかったという。そして、シモーネの技術は、ジムで新体操をする他の少女たちの真似を通して身に着けたものであることに気づいたのだ。

 

厳しいトレーニング

若きシモーネを指導し、厳しいトレーニングに導いたのはコーチのエイミー・ブアマンだった。実際、シモーネは学校に通わず、自宅学習のみで高校を卒業している。

 

 

トレーニングは週30時間以上

子供時代のシモーネは、週に最長32時間におよぶトレーニングをこなしていたとされる。このような徹底的なトレーニングのせいで、子供らしい楽しみにはあまり縁がなかったようだ。

 

No.1のプレッシャー

力強さと現代的なエレガンスを兼ね備えたシモーネのスタイルは、新体操の世界を一変させることとなる。その新鮮な流儀こそシモーネをトップの座に押し上げた原動力なのだが、長期にわたってNo.1を維持しなくてはならないというプレッシャーは、アスリートなら誰もが知るところだろう。

スポーツ選手とメンタルヘルス

シモーネの告白は、スポーツの世界では無視されがちなメンタルヘルスの問題に一石を投じることとなった。しかし、このようなケースはシモーネだけではない。

 

うつ病を打ち明けた大坂なおみ

2021年には、現在世界ランキング2位のテニスプレーヤー、大坂なおみがうつ病で全仏オープンを棄権したと報じられた。世間の反応はおおむね好意的なものだったが、一部の選手仲間たちからは無理解なコメントも挙がった。

 

マイケル・フェルプスとうつ病

また、スポーツ史に輝かしい名を残す競泳選手、マイケル・フェルプスもうつ病を公表。今でも闘病を続けているという。

 

「世界の重みが両肩にのしかかっている」

一流アスリートたちに共通の悩みは勝利へのプレッシャーだ。シモーネの「世界の重みが両肩にのしかかっているような気がする」という言葉からも、選手たちの過酷なプレッシャーが読み取れるだろう。

 

ケガのリスク

シモーネはまた、ときには勝負から遠ざかり身体を気づかう必要があるとコメント。新体操につきものののケガは、単なる痛みに留まらない長期的な健康問題につながってしまうリスクがあるとした。

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メンタルヘルス改善の取り組み

2020年の東京オリンピックで棄権して以来、演技から遠ざかっているシモーネだが、2022年9月にはTwitter上で「メンタルヘルス改善に取り組んでいるだけ」であり、引退したわけではないと語っている。

 

 

復帰の時期は不透明

スポーツ評論家たちはシモーネについて、概ね一時的に競技から遠ざかっているだけだと見ているものの、いまだ競技に復帰する気配はない。パリオリンピックが1年あまりに迫った今、シモーネがいつ舞台にカムバックするのかは不透明だ。

 

 

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