メンタルヘルス問題に悩んだことがあるサッカー選手たち
ファンやスポーツ紙などからつねに最高水準のパフォーマンスを期待され、とてつもないプレッシャーにさらされるサッカー選手。けっきょく、トップアスリートといえどひとりの人間なのだ。キャリア中や引退後に、自身が抱えていたメンタル上の問題を赤裸々に語ったサッカー選手たちの声に耳を傾けてみよう。
絶頂期には世界最高峰の選手として知られたイニエスタだが、そんな彼もメンタルヘルスの問題とは無縁ではなかった。本人がポッドキャストで語ったところでは、スペインのRCDエスパニョールでプレーしていた友人のダニエル・ハルケが急逝した直後から不調に見舞われるようになったのだという。
「鬱と闘っているとき、1日のうちでいちばんましなのは薬を飲んで寝る時でした。生きる気力を失ってしまい、妻を抱きしめても枕を抱いているようでなにも感じませんでした」そして、イニエスタは専門家の助力を求めに行ったのだという:「セラピーに通い続けました。自分自身と折り合いをつける必要があったのです」
ベルギーの選手、ヤン・フェルトンゲンは最近、トッテナム・ホットスパーFCでプレーしていた時期に苦しんでいたメンタルヘルスの問題について語った。彼によると、すべては2019年チャンピオンズリーグでの準決勝、対アヤックス・アムステルダムの第一試合から始まったのだという。
試合中、フェルトンゲンはチームメイトのアルデルヴェイレルトと相手チームのキーパー、オナナと接触、脳震盪にみまわれてしまう。そして数ヶ月経ったあともめまいや頭痛、精神的な不調に悩まされていたとベルギーのポッドキャストで語っている。フェルトンゲンはこう語った:「あらゆる専門家のところに行きましたが、誰も理由を明らかにできませんでした。いま当時の自分の写真を見ると、なにかがおかしいと断言することができます。目が違うんです。それに、『ダウン』する頻度も上がっていました」
フェルトンゲンは当時、キャリアに影響することを恐れて自身が抱えていた問題についてオープンにできなかったという:「契約期限が近かったので、精神的不調を抱えていると言ったら他のクラブがどう考えるかわかりませんでした」
イタリアの選手、ジャンルイジ・ブッフォンもメンタルヘルスの問題について率直に語っている。ブッフォンはユヴェントスFCでプレイしていた時期に鬱病に苦しめられたと『ヴァニティ・フェア』誌に語っている:「数ヶ月もの間、すべてが無意味に思えました。とても辛い時期でした。25歳で、キャリアの絶頂期でしたから」
ブッフォンは自分がサッカー選手としてしか扱われていないと感じたのだという:「私のことなどどうでもよく、ただサッカー選手としてのみ大事にされているように感じました。みなブッフォン選手のことばかり考えていて、ジャンルイジのことなどどうでもいいような。私はそういった感情をいつも隠さずにオープンにして、泣くこともありました。そういった振る舞いを恥じる必要はないと思います」
ジェシー・リンガードも同じ問題に苦しんでいたことを明かしている。彼はマンチェスター・ユナイテッドでプレーしていた2020年ごろ、アルコールで苦しみを紛らわしていたのだという。英紙『ガーディアン』にこう語っている:「家でくつろいで軽く酒を飲みたいとしか考えていませんでした。苦しみを紛らわそうとしていたんです」
当時、彼は母親が治療中だったためきょうだいの面倒も見なければならなかったのだという。それに加えて、FAカップのダービー・カウンティFC戦後はファンからの嫌がらせもあった:「いつも品定めされているような雰囲気で、とくにダービー戦の後はそれがひどくなりました。バスに乗る時に嫌がらせもされました。ピッチの外で私がどれほど苦しんでいるかなんて誰も知りませんから、みんな『サッカー選手だし、いい家に住んでいるんだろう。金もあって苦労もなさそうだ』と考えるんです。でも、健康や幸福ということに関してはそんなことはありません。みんな人間なんです」
かつてチェルシーFCで活躍したプリシッチもまた、メンタルヘルスの問題に苦しみ専門家を頼ったと明かしている。チェルシーFCのYouTubeチャンネルでこう語っている:「すべて自分にかかっていると思うと大変な重圧です。個人的には、そのような時期にはセラピストに頼りました。決して恥ずかしく思うようなことではありません」
プリシッチはこう続けている:「自分が感じていることを人に話す練習になりますし、誰かに聞いてもらうだけでもずいぶん楽になります。私自身もやりましたし、他の人もやっていることです。自分の胸にのしかかっていることを人に話すというのは、とても大きな意味を持つのです」
トッテナム・ホットスパーFCやマンチェスター・ユナイテッドWFCで輝かしい活躍をしたマイケル・キャリックだが、2009年にチャンピオンズリーグ決勝でFCバルセロナに負けたことがきっかけで精神的にかなりの不調に陥ってしまったと自伝『Between the Lines(原題)』で書いている。2010年のワールドカップを辞退したい気持ちになったこともあったという。キャリックは「Sky Sports News」にこう語っている:「イングランドのためにプレーする気持ちになれませんでした。イングランドから離れたくなかったし、ユナイテッドではひどいプレーばかりでした。ユナイテッドのために全力を尽くしたいと常に思っていたので、どんどん気が重くなるばかりでした」
キャリックはこう続けている:「今では当時を振り返って、抱えていたスランプについて語ることができます。恥ずかしいとも思っていません。どうしてああいう状態に陥ったのか理由は分かりません。ささいなことの積み重ねだったのでしょう。そういうことの結果、私のプレーはひどいものになり、自分の状態も悪くなったのです」
サッカー史上最高のストライカーのひとりであるロナウド・ナザーリオ。圧倒的な資産と名声を手にした彼もまた、その圧倒的なキャリアにも関わらずメンタルヘルスの問題を抱えて専門家に頼ったことがある。2022年にロナウドはスポーツメディア「Marca」にこう語っている:「いまはセラピーに通っています。もう2年半ほどになります。以前よりも自分のことがよくわかった気がします」
ロナウドは、彼と同世代の人々はもっと適切な助言を得るべきだったと語っている:「私の世代の人間はみな、いきなり会場に放り込まれて、右も左も分からない中で最高のプレーをすることが求められてきました。いま振り返ってみると、とてつもない精神的負荷のかかる状況になんの用意もなく放り込まれていたということがわかります」
ロナウドいわく、サッカー界におけるそのような状況はかなりの程度改善してきているという:「最近は、プレーヤーたちは以前よりもあらかじめ備えておけますし、日々直面する問題にも医療的なサポートが与えられています。それに、個々の選手の状態や、あるべき姿も以前よりもっと研究されています。残念ながら、私の時代にはそういったものはまったくありませんでした。サッカーとはストレスフルなもので、残りの人生をすべて決めてしまうような力を持つものだと信じきっていたのです」