ユーロ2024で物議を醸す:新VARを取り巻く議論とは
ワールドカップやオリンピックなど主要大会のたびに新たなプレースタイル、戦術が編み出され、現代サッカーは刻々と進化を遂げていく。さまざまなテクノロジーや技術革新もサッカーに大きな影響を与えてきた。
現在開催中のユーロ2024(UEFA欧州選手権)においても例外ではない。UEFAは今大会から「コネクテッドボールテクノロジー」と呼ばれる技術を導入。これは選手とボールの物理的接触を感知し、ハンドの判定に役立つ技術だ。
さらにUEFAは「半自動オフサイドテクノロジー(SAOT)」も導入。すでにいくつかのリーグで導入されているSAOTでは、ボール内のチップが選手の体の動きを補足。VAR審判が画面上に手動でオフサイドラインを引く必要がなくなり、オフサイド判定をより迅速に行うことが可能になる。
新しいテクノロジーによって、ファウルやオフサイドの判定は容易になった。しかし、これらの技術革新は、VAR導入時にも巻き起こった論争に再び火をつけることになるかもしれない。
新VARによって、ユーロ2024ではベルギー代表ロメル・ルカクの3ゴールが取り消されたことが大きな議論を呼んでいる。
英紙『ガーディアン』によると、ベルギー代表のロイス・オペンダがルカクにパスを出そうとボールをコントロールしようとした際、ボールに軽く手が触れていたという。オペンダの手はボールの進行方向を変えてはおらず、不自然な高さではなかったように見えたが、ゴールは認められなかった。
VAR導入の影響もあり、スロバキアに0-1で衝撃的な敗北を喫したベルギー代表。続くルーマニア戦では2-0で勝利したが、3-0となる可能性もあった。ルカクのゴールがまたもや取り消されたが、今度はSAOTの判定によるものだった。紙一重の差だったが、ルカクのつま先がオフサイドだったと判定された。
英紙『デイリー・メール』によると、トッテナムのアンジェ・ポステコグルー監督は「VARの話は聞きたくないね!サッカーがミリ単位の法廷捜査に変えられてしまったことには苛立ちを感じているよ」と語っている。元イングランド代表のイアン・ライトは「ストライカーだった身としては、あのようなオフサイドは決して受け入れられないね」とコメントしている。
グループリーグのハンガリー対スコットランドの試合では、ペナルティエリア内でハンガリーのヴィリー・オルバンにスコットランドのスチュアート・アームストロングが倒されたが、PKは与えられなかった。結果的にスコットランドはグループリーグで敗退し、VARの判断が勝ち上がりに影響を与えたとして物議を醸した。
英放送局『スカイスポーツ』によると、スコットランド代表のスティーブ・クラーク監督は「なぜあれがPKでないのか、誰かに説明してほしいよ。100%PKが与えられるべきだった」と語ったという。「1点差の試合でPKを獲得できれば、状況は違っていたはずだ。言いたいことは山ほどあるが、堪えるしかないね」とクラーク監督は付け加えている。
アームストロングはエリア内で膝の裏を痛めていたが、主審のファクンド・テジョはピッチサイドのVARモニターをチェックしなかった。結局、ハンガリーが99分に得点し、スコットランドの敗退が決まった。
VARはフランス対オランダの試合でも物議を醸した。オランダ代表シャビ・シモンズのゴールが取り消されたのだ。オランダのダンフリースがフランス代表ゴールキーパー、ミク・メニャンのセービングを妨害したとしてファウルとなり、ノーゴール判定になった。
このVAR判定からもわかるように、新テクノロジーをもってしても審判の判断は主観的なものにならざるを得ず、VARはときに重要な試合の結果を左右してしまう。選手やコーチらの抗議もあり、アンソニー・テイラー主審が最終的にノーゴールの判定を下すまで3分もかかっている。
元スペイン代表セスク・ファブレガスは、英放送局『BBC』のインタビューで、「違った判断もあり得たかもしれない。サッカーでは全てが一瞬の間に起こるから、少なくともVARは主審を呼んで映像を確認するよう促すべきだったね」と語っている。
サッカーでは、あらゆる判定が最終的に主審に委ねられているため、意見や主観的な判断を完全に排除することは難しい。つまり、より公平を期するためにどのような新テクノロジーを導入しても、最後にはある個人の判断に委ねられるのだ。
VARはユーロ2024、そしてサッカーにとって有害なものなのだろうか。それとも審判の判断を助け、よりサッカーを公平なものにしているだろうか。議論は続いている。