レアル・マドリードの本拠地、ベルナベウ・スタジアム総工費が2,000億円を超える
スペインの首都マドリードでもっとも多くの人が訪れる10大名所の一つとなっているレアル・マドリードの本拠地、サンティアゴ・ベルナベウ・スタジアム。このサッカーの聖地では2019年から大規模な改修が行われており、スポーツはもちろん各種イベントの舞台として生まれ変わる予定だ。
改修によりサンティアゴ・ベルナベウは収容人数を増やすほか各設備を刷新、スポーツからカルチャーまで幅広い分野のイベントを開催するほか、レジャーやショッピング、飲食サービスを提供する予定だ。大規模なスタジアム改修計画を数字で検証してみよう。
総工費はスタジアム竣工まで流動的ではあるものの、合計15億ユーロから18億ユーロ(2,250億円から2,700億円)にのぼると推定されている。ここにはレアル・マドリードが調達した融資(これまで11億7,000万ユーロ)とその利子が含まれている。
スタジアム改修にあたり、レアル・マドリードは3度の借入を行っている。最初は2019年7月、米金融大手のバンクオブアメリカ・メリルリンチ、JPモルガン・チェース、さらにスペイン銀行大手であるサンタンデール銀行とカイシャバンクから総額5億7,500万ユーロ(約862億円)の融資を受けた。うち3億ユーロは土木工事、1億2,400ユーロは施設改修、1億ユーロは技術関連に充てられ、5,000万ユーロは予備となっている。
大規模プロジェクトに予算超過はよくあることだが、果たしてレアル・マドリードも2021年に2億2,500万ユーロ(約337億円)の追加融資を要請。当初ソシオは追加要請に疑問の声を挙げたが最終的に同意し、さらなる借入でプロジェクトが継続されることになった。
2023年、レアル・マドリードは3度目の融資要請を行った。このときの額は3億7,000万ユーロ(約555億円)で、パンデミックやウクライナでの戦争に起因する減収、さらに後から加わったイベント管理室や屋外スクリーンといった設備導入に充てられることになった。
巨額の借入を行ったレアル・マドリードは、将来に向けてどのような返済計画をたてているのだろう。レアル・マドリードのフロレンティーノ・ペレス会長は、30年にわたり6千万ユーロ(約90億円)ずつ返済するとしている。つまり総額は18億ユーロ(約2,700億円)にのぼる。
借入の返済はスタジアムの収益でまかなわれる予定だ。レアル・マドリードと米投資会社シックス・ストリート・ファンドによれば、クラブ側は今後20年にわたりベルナベウの運営権を「レジェンド」社に売却、年間約4億ユーロの収益を見込んでいるという。
こうした収益はスタジアム利用の多角化によって挙げられることになる。まずサッカー戦では年間平均29試合を開催、うち19試合がラ・リーガ、コパ・デル・レイが最大で3試合、チャンピオンズ・リーグが少なくとも6試合、そのほかに親善試合が予定されている。
さらに、レアル・マドリードがこれまでに明らかにしているように、大きな収益が期待されるNBAやNFL、あるいはテニス戦の開催も目指している。
新生スタジアムではスポーツのほかに音楽を始めとするさまざまなイベントも開催され、365日を通じて多くの人を集める空間となる。催されるビッグイベントの数は年間平均58を想定、2024年5月30日にはテイラー・スウィフトのコンサートが開催される予定だ。
また、レアル・マドリードは改修後のスタジアムツアーの利用者数を年間260万人、収益にして2,500万ユーロと見積もっている。
新たなスタジアムそのものも一見に値する。前衛的なフォルムをした構造部にはさまざまな鉄鋼パーツが使われており、最も軽いものは3トンで、最も重いものは1階から7階におかれる柱で38.5トンとなっている。
サンティアゴ・ベルナベウの外観は1万4,000枚のパネルで構成されている。パネルの総重量は、パリのエッフェル塔で使われた錬鉄とほぼ同じ730万トンだ。
スタジアムの総面積は12万971平方メートルから12万5,600平方メートルに拡大。商業エリア「ラ・エスキナ・デル・ベルナベウ」を排して約5,000平方メートルの空間を確保、もと商業エリアには緑ある公共空間がおかれる予定だ。
上部にシェル型の屋根がおかれたことで建物の高さも以前の45メートルより12メートル高い57メートルに達し、以前にもまして威容を誇るスタジアムとなった。
スタジアムではより多くのファンが観戦できるよう座席数を拡大。改修を通じて約3,000席を追加し、8万1,044席から8万4,744席となる。
さらに、新たなスタジアムには目を瞠るような3つの新機能が採用されている。そのひとつが開閉式の屋根で、わずか15分で開閉でき観客を突然の雨から守ってくれる。
観戦体験を盛り上げるもう1つの新機能は、観客席上部にめぐらされた360度の巨大LEDスクリーンだ。各チームの先発メンバーや試合中のプレーなどが大きく映し出される。
建物内部で採用された新機能の3つめはピッチだ。スタジアムでコンサートなどのイベントなどが行えるよう、ピッチが格納式になったのだ。ピッチは芝を傷つけることなく6分割され、地下30メートルの格納庫に収められる。地下空間で水やりや光の照射、酸素を与える換気等が自動制御で行われている。
スタジアムの地下には巨大な駐車場もおかれる。430台分のスペースのうち15台分はさまざなな車両に対応でき、トレーラーがアクセスしたり折り畳み式のグランドスタンドからアリーナに移動したりすることも可能だ。
2019年に着工したサンティアゴ・ベルナベウの改修には5年の月日と莫大な予算がかけられたが、これにより前衛的なフォルムのランドマークが完成しつつある。世界トップレベルのスポーツ試合はもちろん、音楽や文化、見本市などあらゆるイベントの舞台となる巨大スタジアムに期待しよう。