レアル・マドリードFWヴィニシウスへの人種差別発言:検察が捜査を開始
サッカースペイン1部レアル・マドリードは、5月21日に行われた対バレンシア戦でレアル・マドリードのFWヴィニシウス・ジュニオールに向けられた人種差別行為について検察庁に訴状を提出したことを発表。「このような攻撃はヘイトクライムにあたります。当クラブはこの件に対し、つよい拒絶と非難を表明します」と声明に綴った。検察庁はこの件に関し正式な捜査を開始したと、『ガーディアン』紙が報じている。
ヴィニシウス・ジュニオールは現在、世界最高のサッカー選手の一人とみなされている。21日に行われたラ・リーガ第35節の対バレンシア戦で観客から「サル、サル」という差別発言を投げかけられ、あざけった観客およびスペインサッカー連盟に強い抗議を行っている。
侮辱行為に遭ったヴィニシウス・ジュニオールもSNSのアカウントを通じてコメントを発表:「かつてロナウジーニョ、ロナウド、クリスティアーノ、メッシのものだったラ・リーガは、今や人種差別主義者たちに牛耳られている。意見を異にするスペインの人々にはわるいが、現在ぼくの母国ブラジルでは、スペインは人種差別国家として知られている」
写真: Twitter - @vinijr
ラ・リーガの終了まであと4節、バレンシアは1部リーグ残留争いを迫られる一方、レアル・マドリードはFCバルセロナに次ぐ2位の座が確定していた。この試合が今シーズンでもっとも物議を醸すものになるとはだれも予想していなかっただろう。
試合の後半33分、ブラジル出身のヴィニシウスはバレンシア側のファンから差別的発言があったとして観客席を指さした。問題行動を起こしたファンは特定され、警察によってスタジアム外に連れ出されたもののその間も侮辱的発言や小競り合いが続き、試合は一時中断されてしまった。
やがて試合は再開され後半の残り20分と延長10分が行われたが、すでに雰囲気はきわめて険悪になっていた。そして終了間際、こんどは両チームの間でもみ合いが起こった。
後半アディショナルタイム、遅延行為を行ったバレンシアの選手を巡って両チームがふたたび口論となった。つめ寄るヴィニシウスをバレンシアFWのウーゴ・ドゥロが後ろから羽交い絞めにし、それを振り払おうとしたヴィニシウスの手が相手の顔にあたった。これに対し、審判はドゥロとヴィニシウスの両選手にレッドカードを出し、退場を命じた。
この試合の主審を務めたデ・ブルゴス・ベンゴエチェアが作成した試合報告書でもひと悶着が起こった。
ベンゴエチェア主審の審判報告書にはエスタディオ・メスタージャで行われたこの試合で差別的発言があったという記録がないことが判明、主審は修正を迫られた。なお審判技術委員会は記載不足の理由をコンピューターエラーに帰したが、ヴィニシウスは納得しなかったようだ。
写真: Instagram - @vinijr
修正後の報告書には次のように記載された:「試合開始73分、南側スタンドにいた観客マリオ・ケンペスが、レアル・マドリードの背番号20番ヴィニシウス選手に向かって『サル、サル』と叫んだ。人種差別行動に対するプロトコルが発動され、メガフォンで呼びかけを行うよう現場に指示が出された」
今シーズンを通じ、ヴィニシウスは何度も差別的発言を受けている。この問題についてヴィニシウスを被害者とする意見もあれば、彼の態度が挑発的だとする見方もあり、物議を醸している。
ブラジル出身のスーパースター、ヴィニシウスの最大の敵とみなされているのはリーガ・エスパニョーラ会長、ハビエル・テバスだ。火花を散らす両者に対し、ソーシャルネットワークではさまざまな意見が飛び交っている。
ハビエル・テバス会長は自身のアカウントにこう投稿している:「人種差別問題とそれに対するリーガ・エスパニョーラの対処について、しかるべき方面からの説明が行われていないようなので我々から説明を行うべく、日程を2回設定したが、あなたは2回とも現れなかった。ラ・リーガに批判や不満を申し立てる前に、正しく情報を理解してもらいたい。他人に踊らされることなく、各自の責任範囲や我々が行っている仕事を理解すべきだろう」
写真: Twitter - @tebasjavier
ヴィニシウスも黙っていない:「またしても、ラ・リーガ会長は人種差別主義者を批判する代わりにソーシャルネットワークでぼくを攻撃してきた。口先だけの発言をしたところでラ・リーガのイメージはすでに揺らいでいるし、彼が人種差別主義者と変わらないということは明らかだ。人種差別について友達のように語り合いたいわけではない、具体的な行動と処罰を求める」
写真: Twitter - @vinijr
物議を醸した試合を受けて、ヴィニシウスにサポートの手を差し伸べたのはレアル・マドリードのチームメイトだけではない。国際サッカー界の多くの人が彼を擁護する姿勢を明らかにした。
写真: Instagram - @vinijr
レアル・マドリードのクルトワ、カマビンガ、フェデリコ・バルベルデ、ベンゼマ、チュアメニに加え、パリ・サンジェルマンの代表選手であるエムバペやネイマール等も、ヴィニシウスが何か月も前から受けてきた侮辱に対し連帯を表明した。
写真: Instagram - @k.mbappe
元イングランド代表で現在はサッカー解説者のリオ・ファーディナンドは、ソーシャルメディアのアカウントを通じもっとも手厳しいコメントを行った一人だ。
「ヴィニシウスはだれかに守られているだろうか。試合中に人種差別を受け、首を締めあげられ、その上レッドカードを突き付けられるなんて。この若手選手は何度こんな目に合わなければならないのだろう。この事態に痛みを感じるし嫌悪感を覚える。ヴィニシウスは助けを必要としているのに組織は何もしてくれない。人々は団結し、組織側が彼をもっとリスペクトするよう求めるべきだ」とリオ・ファーディナンドは投稿。
写真: Instagram - @rioferdy5
レアル・マドリードのカルロ・アンチェロッティ監督も、落ち着いた彼にしてはめずらしく怒りをあらわにした。記者会見でプレーについて話すことを拒否し、差別問題について意見を述べたのだ。
「人種差別を理由に選手を外すなんてこれまで一度もなかったが、今日のスタジアムには人種差別的な雰囲気があったことから、彼を試合から外すことも考えた。決して許されることではない。これはラ・リーガの問題であり、ヴィニシウスの問題ではない。彼はきわめて深刻な問題の被害者となっているのだ」と、アンチェロッティ監督は批判の声を上げた。
写真: Instagram - @mrancelotti
レアル・マドリードのフロレンティーノ・ペレス会長も事件のことを知って怒りを爆発させたと伝えられている。ペレス会長はレアル・マドリード・バスケットのユーロリーグ戦に帯同してリトアニア入りしていた折に、ヴィニシウスの件について知らされた。帰国後に何らかのコメントや、クラブとしての対処を打ち出すものとみられる。
ヴィニシウスの母国、ブラジルのルーラ・ダ・シルバ大統領も選手を擁護する立場を明らかにしている。「人生で成功を収め、最高のサッカー選手の一人となりつつある青年がこうした攻撃に遭うとはまったく理不尽だ。サッカースタジアムでファシズムや人種差別がまかり通るのを許すことはできない」と記者会見で発言、自身のソーシャルネットワークアカウントにも意見を投稿した。
なお、試合の方はバレンシアがディエゴ・ロペスのゴールでレアル・マドリードに対し1-0で勝利、1部残留への道筋をつけた。