プーチン政権に拘束された女子バスケ選手、ブリトニー・グライナーが獄中体験記を出版
薬物所持の疑いで2022年にロシアで身柄を拘束された米国の女子バスケットボール選手、ブリトニー・グライナー。同年末には釈放されて米国に戻ったが、今月になってロシアでの獄中体験に関する手記を出版した。
5月7日に出版された『Coming Home』はおよそ300ページにおよぶ体験記で、ロシアで拘束されたときの状況や獄中での精神状態、帰国に至った経緯などを語ったものだ。
ESPN放送のインタビューを受けたグライナーいわく:「(ロシアの刑務所では)あっという間に身ぐるみを剥がれてしまいますが、刑務所には何もありません…… 私は自分のシャツを細かく裂いて、身体を洗ったり拭いたりするための布切れを作ったほどです」
また、MSNBC放送のインタビューによれば、ロシアの刑務所には独自の「流儀」があるようだ。グライナーは「彼らのやり口の1つは私を男性用の雑居房に入れようとしたことです。もちろん、『あそこはイヤだ』と拒否しました」と語っている。結局、グライナーは女性用の施設に連れて行かれたという。
グライナーは刑務所内で通常の囚人たちと同じ待遇を受けていたという。NPR放送のインタビューによれば、「50人あまりの女性がいるのにトイレは3つ、浴室は1つしかありません。しかも、お湯は出ません。バケツとひしゃくがあるだけです…… しゃがみこんで身体に水をかけるわけです。いつも10~12人が列を作っているので、使える時間はせいぜい5分くらいです」とのこと。
また、『ニューヨーク・タイムズ』紙のインタビューの中で、グライナーは「部屋は悪臭が漂っていました。床にあけられた穴がトイレになっていて、糞便まみれなんです」と説明。油っぽい魚が入ったミルク粥のせいで気分が悪くなったり、ベッドが小さすぎて横になるたびに古傷が痛んだりしたという。
グライナーはさらに、「あんなに不潔な暮らしをしたのは初めてでした」とコメント。10ヵ月におよぶ拘束期間中には自ら命を絶つことも考えたそうだ。
さらに、刑務所に送られたグライナーはすぐに、囚人仲間たちが信用ならないことに気づいたという。ESPNのインタビューによれば、グライナーは刑務所内でオーリャという囚人と仲良くなったが、実はチクリ魔だったらしい。
グライナーいわく:「オーリャは横になって寝たふりをします。でも、本当は起きていて私たち(グライナーと別の囚人)の会話を見張っているわけです。そして、話が終わるとそれを書き留めておく。ある日、彼女がこっそりと看守にメモを渡すのを見て、こいつはスパイだったのかと思いました」
『Coming Home』の中でグライナーは「プーチン大統領にとって、私には駒としての使い道がありました。敵対する西側諸国に圧力をかけることができるからです。彼は米国が歴史的に人種問題で緊張を抱えていることをよく理解しており、それに付け込む術を心得ていました」と語っている。
グライナーは以前からたびたびロシアを訪れていたが、2022年に拘束されるまでトラブルに見舞われたことはなかった。NPR放送のインタビューの中で「シーズン中に何度も渡航しました。8年間もロシアにいたんです」と語っていることからもわかるように、グライナーは米国でのシーズンオフを利用してロシア・バスケットボール・スーパーリーグでプレーし、稼いでいたのだ。
ところが、2022年は状況がまったく異なっていた。グライナーは当時の空港の様子についてこう語っている:「こんなに警備が厳重なのは見たことがありませんでした…… 呼び止められた人はみな、米国人などロシア人以外だったようです。ロシア人たちはチェックも受けずに堂々と通過して行きました」
さらに、拘束期間が知らされなかったことから、グライナーは結婚生活が破綻してしまうのではないかと懸念したそうだ。しかし、妻のシェレルはグライナーを帰国させるため手を尽くしていた。
シェレルはさまざまなトーク番組に出演したりバイデン大統領に手紙を書いたりして、グライナーがロシアで拘束されたままになっていることが忘れ去られてしまわないよう、働きかけたのだ。
帰国後のグライナーはコートに戻る前に、心と身体の健康を取り戻す必要があった。『ピープル』誌によれば、グライナーはアスリートたちが体調管理のために十分な休養を取ることについて、理解を示しているとのこと。
『ニューヨーク・タイムズ』紙が今年4月に掲載した記事によれば、グライナーが『Coming Home』を出版したのは、自身が受けた非人間的な扱いを告発し、ロシアで獄中生活を送る米国人の日常を伝えるためだったという。
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