史上初のパラ・トランスジェンダー選手にテニス界の伝説マルチナ・ナヴラチロワが不快感を示す
パリ・パラリンピックでは史上初めてトランスジェンダー選手が出場を果たした。歴史を変えたのはイタリアの陸上選手、ヴァレンティーナ・ペトリッロ(51歳)だ。
ペトリッロは、まず女子400メートル(視覚障害T12)に出場した。予選は58秒35のタイムで組2位となり、準決勝に進出。準決勝では自己ベストの57秒58を記録したものの、組の3位で決勝進出を逃している。
ところで、トランスジェンダー選手がオリンピックに参加することを好ましく思わないアスリートもいる。チェコの元テニス選手、マルチナ・ナヴラチロワはその1人だ。
パリ・パラリンピックが始まる前、テニス界のレジェンド選手マルチナ・ナヴラチロワは、ペトリッロが今大会に出場することについて不快感を示した。
ナヴラチロワはX(旧Twitter)アカウントで、パラリンピックに出場する史上初のトランスジェンダー選手を「みじめな詐欺師」と呼び、ヴァレンティーナ・ペトリッロを容赦なくこきおろしたのだ。
ナヴラチロワはトランス女性アスリートがそうではない女性アスリートに混ざって競技することを間違いだと感じている。スポーツ系メディア「SportsKeeda」によると、彼女はトランスジェンダー選手が女性スポーツに参加することを禁じたアイダホ州の法律への支持を表明しているという。
さらにナヴラチロワは、Xに投稿されたペトリッロの紹介記事に反応して次のように書いている。「またひとり、男性が女性たちのトロフィーをくすねる。パラリンピックでも同じこと。反吐が出そう」。とはいえ、ペトリッロはパラリンピックに出場して新しい歴史を作りつつある。
英紙『Metro』によると、ペトリッロは性別移行を5年前に終えており、世界パラ陸上競技連盟の定める出場要件を完璧に満たしているという。
ペトリッロは2日に陸上女子400m(視覚障害T12)を終え、6日には200m(視覚障害T12)に出場した。この種目でも予選を通過したが、準決勝で敗退している。
ヴァレンティーナ・ペトリッロは1973年生まれの51歳。前回の東京パラリンピックは選抜から漏れてしまい、出場を逃した。パリ・パラリンピックは彼女にとって悲願の舞台である。
もっとも、『デイリー・メール』紙によると、同じ種目のライバルであるカトリン・ミュラー=ロットガルト(ドイツ)はペトリッロの出場を歓迎してはいないようだ。ペトリッロは「これまで長きにわたり、男性として生活しトレーニングをしてきた」ので、生まれてからずっと女性として生活してきた自分のような選手よりも根本的に有利な立場にあるのではないか、とミュラー=ロットガルトは考えているという。
ミュラー=ロットガルトはこうも言っている。「毎日の暮らしについては、すべての人が思い思いの仕方で快適に送るのが望ましいが、しかし競技の世界ではそう簡単にはいかないように思う」
ペトリッロは以上のような批判に対し、次のようにコメントしている。「私たちの自己表現は、自身のジェンダーと一体のものであるべきです。そしてスポーツは、インクルージョンの良い面を私たちに教えてくれるものであり、このことを基礎として人々の幸せは成り立つのです」
ペトリッロはパリ・パラリンピックの始まるまえに、こうも語っていた。「いますぐにでもパリに行って、あの美しい紫のトラックを走り、熱に浮かされた観客たちを肌に感じたいような気持ちです。そこでは想像を超えるような大きな愛を与えてもらえる気がします」
しかしその一方で、ペトリッロが今大会の出場資格を得たことについて不服の申し立てが行われた。スペインのメラニ・ベルジェス・ガメス(Melani Bergés Gámez)は、ペトリッロが出場資格を得たことによってパリ・パラリンピックへの出場を逃してしまい、弁護士を立てて不服を申し立てたのだ。
BBCスポーツによると、国際パラリンピック委員会会長であるアンドリュー・パーソンズは、ペトリッロの出場を認めたことについて「批判を聞く覚悟はできている」と語る。
そして、「我々は自分たちのルールを尊重する必要があります。それを軽んじるわけにはいきません。個人としては意見があちこち揺れ動くこともありますが、しかし組織としては組織の規約に従う必要があるのです」と、毅然とした態度を打ち出している。
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