サッカー界で人種差別に苦しんだスターたち:ヴィニシウス、エトー、ポグバ、......
スペインリーグの名門レアル・マドリードで活躍するブラジル代表のサッカー選手、ヴィニシウス。だが、そんな彼が人種差別にさらされている。残念ながらサッカーにおける人種差別は今に始まった問題ではなく、ヴィニシウスが直面しているような事態は観客席やフィールド上で何度も起こってきたのだ。今回はサッカーにおける人種差別の事例を振り返ってみよう。
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ヴィニシウスに対する差別的な振る舞いは彼がスペインリーグにやってきた当初から見られた。いくつものスタジアムでヴィニシウスは差別的な言辞を投げつけられてきたが、昨年5月に行われたバレンシアCFとの試合中にはヴィニシウスが激昂する事態に発展、今年3月のバレンシア戦でも子供による差別発言が問題になっている。
アスレティック・ビルバオに所属するニコ・ウィリアムズも、スペインの大会コパ・デル・レイでのオサスナ戦で自チームのサポーターから差別的な野次を飛ばされた。こういった事態を受けてウィリアムズはSNSのアカウントをすべて削除。そして配信サービス「DAZN」のTwitchチャンネルでこう語った:「私に起こったようなことが他の誰にも起こってほしくありません。このようなことが続かないよう願います。私たちは人間であり、失敗することもあるのですから」
ニコの兄であるイニャキにも似た経験がある。同じくアスレティック・ビルバオに所属するイニャキは2020年にRCDエスパニョールで交代してフィールドを離れた際に、敵チームのサポーターから猿のような声で侮辱されたのだ。イニャキはこう語っている:「こんなことがもう一度起こったら、ピッチから立ち去るつもりです。そのせいで試合に負けることになっても構いません。そうなれば、人種差別に対するカウンターになるでしょうから」
サッカーにおける人種差別はスペインだけの問題でもない。今年の4月、イタリアのインテル・ミラノがカップ戦準決勝でユヴェントスと対戦。試合中、ミラノ所属のロメル・ルカクに対して差別的なチャントが発せられていた。ルカクは試合終了間際に同点弾を決めたが、直後にユヴェントスのサポーターに向けて黙るよう伝えるようなサインでアピール、審判から二枚目のイエローカードをもらい退場となってしまった。
フランスのポール・ポグバも数多くの差別的野次を浴びてきた選手だ。2019年、当時マンチェスター・ユナイテッドに所属していたポグバはウルヴァーハンプトン・ワンダラーズ戦でPKに失敗、試合は引き分けに終わってしまい、ポグバは多くの心無い言葉を浴びせられた。ポグバは後にツイッターでこう語った:「人種差別的な言辞は無知のあらわれであり、そういった言葉を浴びても私はただ強くなるだけです。そして、次の世代のためにも闘わなければという思いがますます新たになるのです」
イタリア出身のマリオ・バロテッリも人種差別に苦しんだ一人だ。2018年、当時バロテッリが所属していたフランスのクラブ、OGCニースは対戦相手のディジョンFCOサポーターによる差別的なチャントを報告。バロテッリはその後所属を変え、イタリアリーグのブレシア・カルチョに移ったがそこでも同様の事態が発生した(2019年エラス・ヴェローナFC戦、2020年SSラツィオ戦)。ヴェローナの過激なサポーターからは「バロテッリは決して完全なイタリア人にはなれない」という発言まで飛び出た。
フランスとマリの国籍を持つムサ・マレガは2020年、ポルトガルのFCポルトに所属していた。同じくポルトガルリーグのヴィトーリアSCとの対戦中、差別的な野次や猿の鳴き声を模したチャントを受け、71分にピッチを後にして抗議した。
差別的な野次に抗してピッチを後にした選手と言えば、サミュエル・エトーも多くの人の記憶に刻みついている。2006年、FCバルセロナに所属していたエトーはレアル・サラゴサ戦で人種差別的な野次を受けピッチを後にした。エトーは後でピッチに戻り、しかも試合には大勝した。
2005年、イタリアのコートジボワール出身のマルク・ゾロはイタリアのACRメッシーナの選手としてACミラン戦を戦っていたが、敵チームのサポーターからの差別的なチャントに抗議して試合を中断、このままなら試合を放棄すると断固とした態度に出た。だが2006年には再びミランのサポーターから差別的な野次を浴びせられた。
ドイツ生まれでガーナ国籍も持つケヴィン=プリンス・ボアテング。2013年にはピッチ上での人種差別に立ちあがり、シンボル的存在となった。当時イタリアのACミランでプレーしていたボアテングはプロ・パトリアとの親善試合で差別的な野次を浴びた。それを受けてボアテングはボールを手で持って投げてからピッチから立ち去り、ACミランのチームメイトもそれに続いた。
ジャマイカ出身のラヒーム・スターリングは2018年、イギリスのマンチェスター・ユナイテッドでプレーしていた。そこでチェルシーFCとの試合中、終始敵チームのサポーターからの差別的な野次に悩まされた。スターリングは後にBBCにこう語っている:「こういうことを言うのは心苦しいですが、いまサッカー界に蔓延している唯一の病は人種差別です」
カメルーン出身のゴールキーパー、カルロス・カメニは2006年にスペインでプレー中、キャリアの中でも最悪の状況を経験した。スペインの放送局「カデーナ・セール」の番組に出演した際に本人がこう語っている:「最悪の瞬間はRCDエスパニョールに移籍してスペインリーグにやってきた最初のシーズンのことでした。レアル・サラゴサのホームでの試合で、1-0で私たちがリードしていました。敵のサポーターたちはあらゆるひどい言葉を投げつけてきて、審判がゲームを止めようかと提案してくるほどでした」
2019年、フランスのリーグ・アンでのディジョンFCO対アミアンSC戦で、アミアンのディフェンダー、プランス=デジル・グアノに対する差別的なチャントがひどく、試合が5分間停止する事態があった。
ブラジル出身のマウコムは2019年からロシアのFCゼニト・サンクトペテルブルクに所属している。だが、一部の過激なサポーターは彼の移籍が気に入らなかったらしく、移籍後初の試合では「(チームの)指導部よ、伝統を守ってくれてありがとう」という垂れ幕が掲げられた。これは黒人選手を採用しないという「伝統」が破られたことへの反語的な抗議で、人種差別的な意図に基づくものだ。
ブラジル出身のマルセロは何度も差別的な言葉を浴びてきたが、なかでも一番ひどかったのは2014年、レアル・マドリードに所属していた時のことだろう。500人ほどのアトレティコ・マドリードのサポーターが「猿」という言葉を叫び、猿のような声を挙げてマルセロに投げつけたのだ。
ドイツ出身のアントニオ・リュディガーは2019年、チェルシーFCでプレーしていたが、トッテナム・ホットスパーFC戦で試合中に差別的なジェスチャーを目撃した。その後、試合は一瞬中断され差別的な行為を禁ずるアナウンスが何度か流された。さらに、レアル・マドリードに移籍したあとの2023年にもカディスCFのサポーターから試合後に差別的な野次を放たれている。
セネガル出身のパトリス・エヴラは2020年にフランス代表チームにはびこる人種差別を告発したことで知られている。だが、彼が直面した人種差別として最も有名なのは2011年、マンチェスター・ユナイテッド時代のことだろう。エヴラによると、リヴァプールFCとの試合中、相手チームのルイス・スアレスが執拗に彼に対して差別的な言葉を投げ、さらにはエヴラが「黒人だから」攻撃しているのだとさえ言ったのだという。
正式に認定されたわけではないが、フランス出身のムクタル・ディアカビもピッチ上での選手からの暴言を報告している。スペインのバレンシアCFに所属しているディアカビだが、2022年、カディスCFのフアン・トーレス・ルイスから差別的な暴言を吐かれたのだという。憤慨したディアカビがピッチを離れたことで、試合は一時中断する事態となった。
ドイツとセルビアとの親善試合に際して、ドイツ代表が「観客のごく一部から差別的な言葉をかけられた」のだという。ドイツサッカー協会(DFB)が報告している。その差別的な言葉は「ハイル・ヒットラー」のようなものから、黒人のレロイ・サネの肌の色を揶揄するようなもの、そしてトルコ系のイルカイ・ギュンドアンの出自を問題にするようなものもあったという。
カーボベルデ出身で元スイス代表のジェルソン・フェルナンデスは2011年、レンタル先のイタリアのACキエーヴォ・ヴェローナでプレーしていた時に、自分の車に差別的な言葉が落書きされ、おまけに自宅の前で排泄行為が行われるということがあった。また、2017年にドイツのアイントラハト・フランクフルトでプレーしていた時にも、自身のインスタグラムに次のような書き込みがされたことがあった:「おまえは猿の子どもだ。誰かはやくこいつのキャリアを終わらせてほしい。ほんとうのスイス人じゃないんだ」
2014年、スペインのレバンテUDに所属していたパパクリ・ディオップはアトレティコ・マドリードとの試合後、敵チームのサポーターから猿を模した声をかけられ、それに対して踊り返している。後の記者会見で本人がこう語った:「猿みたいな声をあげてきたので、受け流すためにこちらも猿の真似をして踊り始めたんです」
2019年、当時イギリスのトッテナム・ホットスパーFCでプレーしていたダニー・ローズがイングランド代表としてモンテネグロ代表と戦ったときも、数多くの差別的な野次がとびかった。ローズはイギリスのメディアにこう語っている:「もうたくさんです。引退はまだ5、6年先でしょうが、こういった事態の終わりは見えません。今回のことをみればわかるように、サッカー界ではこんなことはありふれています。サッカーは政治的になっていて、正直いって今すぐにでも止めてしまいたい気分です」
ウルグアイ出身のダリオ・シルバは2000年4月、スペインのマラガCFでプレーしていたとき、レアル・オビエドのサポーターから次のような言葉をかけられた:「おいニガー、なんで子供にサインしてやらないんだ? お前みたいなニガーどもはみんな死んでしまえ」
イングランド出身のアントン・ファーディナンドはクイーンズ・パーク・レンジャーズFC在籍時に対戦相手のチェルシーFC所属のジョン・テリーから差別的な言葉をかけられたという。これが原因でテリーはチェルシーのキャプテンから降ろされ、4試合の出場停止処分をうけた。さらに訴訟にまで発展したが、これはのちに無罪判決が出ている。
チェルシーFCの選手が自チームのサポーターから差別の被害に遭った例もある。イングランド出身のタミー・アブラハムがチェルシーFCでプレーしていた時、自チームのサポーターから攻撃を受けたのだ。21歳という若さで臨んだ2019年のUEFAスーパーカップでアブラハムがPKを外し、けっきょく試合はリヴァプールFCの勝利に終わってしまった。SNS上ではアブラハムに対する差別的な言葉が飛び交い、クラブやほかのプレミアリーグのプレーヤーたちが彼への支持を表明する事態となった。
イングランド出身のジョルディ・オセイ=チュチュは2019年、アーセナルからのレンタルでドイツのVfLボーフムでプレーしていた。スイスのFCザンクト・ガレンとの親善試合の時、相手側のスリマン・クシュクから差別的なハンドサインを受け、目に涙を浮かべながらピッチを後にした。オセイ=チュチュのコーチのロビン・ダットは後にこう述べた:「ジョルディが私に説明してくれましたが、肌の色を理由に侮辱されたそうです。彼があんな状態でピッチを離れたのはそのせいです」
フランス出身でセネガル国籍も持つカリドゥ・クリバリは2021年イタリアのSSCナポリ所属時、ACFフィオレンティーナとの試合の終わり際に相手のサポーターから猿扱いするような言葉をかけられたと訴えた。また、2022年にもイタリアのアタランタBCのサポーターから差別的な野次をかけられている。その時はセネガルサッカー協会(FSF)が差別をしてきた人物を「脳なし」と強く非難した。
次もイタリアでのケースだ。フランス出身のブレーズ・マテュイディはイタリアのユヴェントス所属時にエラス・ヴェローナのサポーターから差別的な言葉を投げかけられている。また、2018年と2019年にはカリアリ・カルチョのサポーターからも同様の被害に遭っている。
ブラジル出身のダニエウ・アウベスはスペインのFCバルセロナ在籍中にビジャレアルCFのサポーターから差別的な攻撃を受けたが、それに対して理想的な反撃をしてみせた。2014年、コーナーキックを蹴ろうとしていたアウベスに向かってバナナが投げつけられたのだが、すぐにそのバナナを手に取って一口食べたのだ。後にアウベスはこう語った:「あれはジョークと受け取っています。残念ながらこういうことは変えられないので、無視したほうがいいのです。ああいうことをする人の目的は嫌がらせですから、それを無効化できます」
アーセナル時代のピエール=エメリク・オーバメヤンもバナナ攻撃にかじり返した一人だ。オーバメヤンへの攻撃はトッテナム・ホットスパーFC戦でゴールを決めた直後に起きたが、投げた人物は後にセキュリティカメラの映像から特定され、ロンドン市警に逮捕された。
ブラジル出身のロベルト・カルロスも1996年に被害に遭っている。レアル・マドリードに移籍した最初のシーズンでのFCバルセロナとの二試合でのことだ。バルセロナのサポーターがカルロスに向かって差別的な垂れ幕を掲げ、野次やチャントも起こった。しかも、彼の車に侮辱的な言葉で傷をつけることまでされた。
コロンビア出身のジェフェルソン・レルマは2018年、スペインのレバンテUDでプレー中にセルタ・デ・ビーゴのイアゴ・アスパスから差別的な言葉で罵られた。レルマは後にスポーツ専門局「ビーイン・スポーツ」でこう語っている:「こういった差別的行為はあってはなりません。アスパスは私のことを『ニガー』と呼びましたが、それは許されません」
コートジボワールにルーツを持つイタリアの選手、モイーズ・キーンは2019年、カリアリ・カルチョとの試合中に相手チームのサポーターから差別的な言葉で罵られ、その言葉を発した人物に詰め寄った。キーンはその出来事のあと85分にゴールを決め、差別的なことを言った人たちの前で腕を組んで自身の存在を見せつけた。
フランス出身のアラン・ニョムは2013年、スペインのグラナダCFに所属していた。シーズン最終盤のエルチェCFとの試合でニョムがスローインしようとしたときに相手チームのサポーターから差別的な野次が繰り返し起きた。その試合の審判は「猿の声をまねたような声だった」と振り返っている。
ブラジル出身のロナウド・ナザーリオも差別の被害に遭った一人だ。レアル・マドリード所属時にマラガCFとの試合でロナウドが観客席に向かってボトルを投げたことがあったが、本人によると差別的な野次にうんざりしたからだったという。ロナウドは後日、自分の母親が侮辱されるのは我慢できないとも語っている。
2023年、イタリアのセリエAでのUSレッチェ対SSラツィオ戦で、レッチェは最初先制されながらも2-1で逆転と劇的な勝利を収めた。だが、その試合でレッチェのサミュエル・ユムティティはチームメイトのラメック・バンダとともに差別的な言葉で罵られ、涙ながらにピッチを後にすることになってしまった。ユムティティは後にインスタグラムにこう投稿している:「楽しんでサッカーをするだけです。それ以外はどうでもいい」
またしてもイタリアでの例だ。2019年、ACFフィオレンティーナ対アタランタBCの試合でフィオレンティーナのダウベルト・エンリケに対する差別的な野次がひどく、うんざりしたダウベルトが審判に申し出て試合が三分間止まる事態があった。スタジアムでは規定にのっとりそのような野次は認められないという放送がされたが、サポーター側は口笛などでその放送をかき消してしまった。
2014年、ブラジルのコパ・リベルタドーレスでブラジルのクルゼイロECとペルーのクスコFCが戦ったが、クスコFCのサポーターが猿のような声を出してクルゼイロECのティンがを挑発した。これを受けて、ネイマールやロナウド、ロナウジーニョなどの選手がサポートを表明する事態になった。
2013年、スペインリーグでのセビージャFC対レアル・ベティス戦でベティスのパウロ・サントスが二枚イエローカードをもらって退場することになった。その時、セビージャ側のサポーターが猿を模したような声をあげ、パウロが涙する場面があった。これにはFIFA会長(当時)のゼップ・ブラッターも「見ていて気分が悪くなった」と不快感を表明した。
2004年、イングランド代表とスペイン代表の親善試合に際して、アンディ・コールやリオ・ファーディナンド、ジャーメイン・ジェナス、ジャーメイン・デフォー、ショーン・ライト=フィリップスといった選手たちに対してスペイン側から差別的なチャントや猿のような声があげられた。この出来事は問題視され、スペインサッカー連盟に対してかなりの額の罰金がFIFAから科されることになった。
カメルーン出身のピエール・ウェボは2003年から2011年にかけてスペインリーグのいくつかのクラブでプレーしてきたが、その間なんども人種差別の被害に遭っている。だが、彼の被った差別の中でも最もひどいものは2020年にトルコのイスタンブール・バシャクシェヒルFKのコーチとなってからのものだろう。チャンピオンズリーグでのパリ・サンジェルマンとの試合に際して、コーチとなったウェボは第四の審判員から差別的な言葉で罵られたのだ。これを受けて試合は中止、翌日に審判団を変更して再開された。