オンラインハラスメントを受けた女子ボクサー、金メダル獲得で中傷した人々を見返す
パリ・オリンピックのボクシング女子66キロ級で金メダルに輝いた、アルジェリアのイマン・ヘリフ。彼女は性別についての誤情報や中傷をSNS上で拡散されたことを受け、「アスリートをいじめないよう」人々に訴えている。
『Metro』紙によると、イマン・ヘリフは次のように語った。「それ(誤情報や中傷を拡散すること)は人を破壊します。人の魂や考えや心を殺し、人々を分断させます。だから私は彼らに対して、いじめるのはよしてくれと頼むのです」
実際にSNS上では彼女のことを誤ってトランス女性だとする投稿や、オリンピックでの活躍にけちをつけるような投稿がさかんになされ、一時騒動のようになっていたのである。それを受けて、イマン・ヘリフは先のようなコメントを出すばかりでなく、騒動の片棒を担ったイーロン・マスクやJ・K・ローリングといった著名人を告訴し、自らを標的とする一連のオンライン・ハラスメントに決着をつけようとしたのだ。
『Variety』誌がヘリフの弁護士に確認したところによると、彼女はパリ検察局に訴状を提出したという。告発されているのは、深刻なサイバーハラスメントを行なったとされる個人だという。
フランスの捜査組織「人道に対する罪、ヘイトクライムと戦う中央事務局」は、告訴状の内容について調査中であるとしている。その告訴状によれば、「ジェンダーを理由とする公的侮辱、公の場で差別を煽ること、出自を理由とする公的侮辱」に該当する違反行為があったという。
イマン・ヘリフの弁護士、Nabil Boudiは、オリンピック期間に彼女の性別・ジェンダーをめぐって彼女を中傷した人々の調査について、フランス捜査当局に多くの自由裁量権を与えている。これによって、『Variety』誌によると、捜査当局はヘリフを中傷した可能性のあるバーナーアカウント(匿名の使い捨てアカウント)の捜査も可能になったという。
オリンピック期間の一連の騒動において、イーロン・マスクはX上のある投稿をシェアしている。その投稿は米国水泳選手ライリー・ゲインズのもので、「女性スポーツに男性はふさわしくない」という内容だった。イーロン・マスクはその投稿に「まさしく」というリプライをつけ、留保のない賛意を表したのである。
そのかたわら、「ハリー・ポッター」の有名作家、J・K・ローリングは次のように投稿した。イマン・ヘリフは「女の頭にげんこつを食らわせ、その女が苦しむ様子を見て楽しんでいるような男だ」
米国大統領候補、ドナルド・トランプもまたこの誹謗中傷の嵐に加わり、「わたしは男性を女性スポーツから締め出す!」と投稿した。
これらの投稿は、オリンピックのある試合をきっかけとして一気に噴出した。イマン・ヘリフがイタリアのアンジェラ・カリーニと対戦した試合である。
『ニューヨーク・ポスト』紙などが報じているように、アンジェラ・カリーニは試合開始わずか46秒で棄権し、レフェリーによってヘリフの勝利が告げられたあと、マットに膝をついて「こんなの間違っている!」と何度も繰り返したのだった。
たしかに、ヘリフのオリンピック出場資格をめぐってはもともと論争の余地があった。というのも、2023年に国際ボクシング協会は、彼女のテストステロン値が女性平均よりも著しく高かったこと、そして彼女の性染色体の組み合わせがXYであることを理由に、ヘリフが世界選手権に出場することを認めなかったのである。
その一方でIOCは、インターセックス(DSD/性分化疾患)の選手を女子選手として出場を許可するという判断基準により、イマン・ヘリフのパリ・オリンピック出場を認めたのである。ちなみに、『ピープル』誌によれば、イマン・ヘリフの出生時の性別は女性であり、自身のことをトランスジェンダーであるとは考えてはいない。
イマン・ヘリフの父、オマール・ヘリフはネットメディア「Sky News」に次のように語っている。「私は彼女を、勤勉で勇気ある人間に育てました。彼女は強い意志をもって、仕事やトレーニングに打ち込んでいます。イタリア人の対戦相手が私の娘を打ち負かすことができなかったのは、娘のほうがより強く、相手のほうがやわだったからです」
オマール・ヘリフは『USAトゥデイ』紙の取材に対し、娘イマンは「6歳のころからスポーツが大好きな少女だった」としている。
対戦相手のカリーニはイタリア紙『Gazetta dello Sport』の取材に答えて、「このような騒動になってしまい心を痛めています。対戦相手(イマン・ヘリフ)についても申し訳なくおもっています。IOCが出場可能と判断したのなら、私はその判断を尊重します」
BBCの見立てによれば、イーロン・マスクやJ・K・ローリング、ドナルド・トランプなどを含む、フランスの国境の外でイマン・ヘリフに対して攻撃的なコメントをした人々について、フランス捜査当局が罪に問うことは難しいという。一方、フランス国内において誹謗中傷の投稿を行なった人々は罰を受ける可能性があるとのこと。
オリンピック期間中にそういった誹謗中傷の嵐にさらされていたイマン・ヘリフだが、決勝戦では中国の楊柳(ヤン・リウ)を破り、見事金メダルを獲得している。
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