何歳になっても活躍を続けるベテランアスリートたち
プロ・スポーツはその大半が、血の滲むトレーニングや過密な移動スケジュールを含め、選手たちに大きな肉体的犠牲を強いている。
アスリートはだれもが厳しい現役生活を送っており、何十年もの長きにわたり活躍できるケースはきわめて稀だ。
現代のスポーツ科学をもってしても、プロアスリートは概ね30代にさしかかるころ現役生活に幕を引くと予想されている。度重なる無理のツケを払わされるようになるのだ。
だがもちろん、分の悪さをものともせず、引退の2文字がちらつく年齢をゆうに越えても最高のパフォーマンスを発揮する類まれな選手もたしかに存在する。年齢はしょせん数字にすぎない、そして実力を示したたスターたちを紹介しよう。
現在36歳のリオネル・メッシはまだ若いと言えなくもないが、サッカー選手としてみる限り、ベストなプレーを期待しうる年齢をはるかに上回っている。だが、W杯カタール大会で披露した目の覚めるようなパフォーマンスが続くのであれば……メッシは相変わらず最高だ!
カタール大会に限ってみても、アシスト3、シュート32、うち枠をとらえたシュートは18と、メッシは攻撃の鍵となる活躍だった。MOM(マン・オブ・ザ・マッチ)も5度受賞した。これはカタール大会のみならず歴代大会でも最多の記録である。ゴール数7という彼の記録から辛くも逃げ切ったのは、ただ一人、手に汗握る決勝戦でも大活躍したキリアン・エムバペ(フランス代表)の8得点だった。
キャリア最後のW杯と銘打ったこの大会で、トーナメントを登り詰め、優勝杯をその手に掴む。「ラ・プルガ」(蚤)の愛称を持つメッシは、そう固く心に誓っていた。
7度のバロンドール受賞(うち2度は30代での受賞)、ラ・リーガ(リーガ・エスパニョーラ)で10回の優勝、コパ・デル・レイで7回の優勝、UEFAチャンピオンリーグで4回の優勝。カタールW杯での優勝は、輝かしい受賞歴の集大成にふさわしい。
タンパベイ・バッカニアーズ、その前はニューイングランド・ペイトリオッツ所属のクォーターバック、トム・ブレイディは、すばらしい活躍に彩られた記録破りのキャリアによって(なんと選手生活は通算23シーズン)、まごうことなきしるしをNFL史に刻んできた。
非常に競争が厳しく、肉体的にも苛酷なアメフトの世界。だがブレイディのプレーは、40歳をゆうに越えても全盛期にあるかのようだ。
事実、トム・ブレイディは、スーパーボウルで勝利を飾った歴代最年長クォーターバックになっている。第53回スーパーボウル、ロサンゼルス・ラムズを破った試合でその記録は樹立され、チームは2018年シーズンの覇者になった。彼にとって6回目のNFLチャンピオンである。
2023年2月1日、NFLのレジェンド、トム・ブレイディはツイッターのアカウントを通じて引退を発表、23年間にわたる現役生活に終止符を打った。
ケリー・スレーターは、成功の波に立て続けに乗ってきた。彼以前にそんなことができたアスリートはほとんどいなかった。しかも20歳のときに「プロ・パイプライン」で優勝し、歴代最年少のサーフィン世界チャンピオンになったというおまけつきである。
彼は競技サーフィンの最年長記録も更新している。それも2度。1度目は39歳で優勝したとき。2度目は2022年2月、50歳の誕生日を前に、感動的な勝利を収めたときである。
その30年以上のキャリアは、11回の世界選手権優勝も含めて、浮き沈みでいうと「浮き」がメインだった。ケリー・スレーターは確実に、サーフィン界にその名を刻んだ。
スレーターは今後の自身のキャリアについて、近い将来の引退をほのめかす発言をしているが、引退しても趣味のサーフィンはずっと続けるつもりでいる。
2022年、ロジャー・フェデラーがプロテニス界からの引退を表明し、世界中がどよめいた。フェデラーは41歳だったとはいえ、彼が引退する姿を誰も想像できなかったのだ。
もっとも彼にしてみれば、引退にベストなタイミングについて思い巡らせていたはずだ。だが、5度の世界ランキング1位、4大大会で20回の優勝を叩き出した経歴を差し引いても、そのキャリアに公式に終止符を打った2022年9月において、彼はそれまでと変わらないレベルをキープしていたといえるだろう。
プロスポーツで活躍する女性たちは、男性とはまた異なる壁にぶち当たり、同じ競技の男性選手よりもずっと早い時期の引退に追い込まれることもしばしばだ。そのようななかにあって、ビーナス・ウィリアムズのようなアスリートは真に瞠目すべき例外である。
女子選手のピークが21歳前後とされるテニス。そのような世界でビーナスは、20年の長きにわたり、最高レベルの選手たちと対等にわたりあってきた。
かつてダブルスを組んでいた実の妹セリーナ・ウィリアムズをよそに、ビーナスはいまも競技を続け、しばらく引退の予定はない。
4大大会で7回の優勝(シングルス)、世界ランキング元1位という彼女は、25年以上のキャリアのなかであらゆることをやってのけた。だが、43歳になった今でも、コートに立って実力を試さずにはいられないようだ。
長きにわたって高い競争力を維持し、予期されるキャリアを超えて活躍を続けるアスリートもいれば、バートロ・コローンのように40の大台に載ってようやく真価を発揮するケースもある。
ファンから親しみをこめて「ビッグ・セクシー」と呼ばれるこのドミニカ共和国出身の投手は、2015年に14勝13敗、防御率4.16の活躍で、ニューヨーク・メッツのワールドシリーズ出場に貢献した。
2016年、彼はバッティングの腕前のほどを見せつけた。42歳で初のホームランを打った彼は、プロ野球史上最も遅い年齢で初本塁打を放った選手になった。
2022年8月、ドミニカ共和国のプロリーグでプレーしていたバートロ・コローンは49歳で引退を発表した。
他の競技と比べると、ゴルフはいささか毛色の異なるスポーツかもしれない。プロゴルフの世界では、40歳を越えてプレーすることは珍しくない。
とはいえ、その段階にさしかかっても質の高いプレーを維持できる選手となると、ほぼ皆無だ。フィル・ミケルソンまちがいなく、その例外にあたる選手である。
2021年、ミケルソンは全米プロゴルフ選手権で自身6度目の優勝に輝き、ツアー通算45勝目を挙げた。みごと51歳の快挙である。
この勝利でミケルソンはメジャー最年長優勝記録を更新した。彼に次ぐのは、ジュリアス・ボロスの48歳、トーマス・モリス・ミッチェル(オールドトムモリス)の46歳。
不利な状況をはねとばすとき、ひたむきな情熱が力になる。その最良の例が米国競泳オリンピアンのダラ・トーレスである。年齢がただの数字にすぎないことを、彼女は2008年に身をもって世界に示してくれた。
およそ識者たちは、41歳のダラ・トーレスが自身5度目のオリンピック出場に向けて調整していると耳にしても、過剰な期待を寄せることはなかった。5度のオリンピック出場はそれじたいが立派な記録なのだ。しかも彼女は2004年のアテネ大会を怪我で欠場していた。
にもかかわらず、北京オリンピックの舞台でトーレスは3つの銀メダルを獲得した。うち2つはリレー種目のメダルである。この偉大な記録(競泳史上最年長のメダリスト)はいまに至るまで塗り替えられていない。