末期がんと闘いながら2028年ロス五輪出場を目指すアスリート、ロイダ・サバラオレロの物語
今年のパリ・パラリンピックでも、汗と努力によって素晴らしい成功を手に入れたアスリートたちの存在が世の中に示された。たとえば、末期がんを患いながら五度目のパラリンピック出場を果たしたロイダ・サバラオレロのように。
ロイダ・サバラオレロは1987年4月5日、スペイン・エストレマドゥーラ州に生まれた。11歳3ヶ月のときに横断性脊髄炎を発症。モルヒネを使用する治療のためにしばらく寝たきりとなり、その後は車椅子生活を余儀なくされる。とはいえ、スポーツの道が閉ざされたわけではなかった。
脊髄炎に由来する恒常的な疲労感に悩まされていたサバラオレロは、リハビリのためウエイトリフティングを始めると、18歳のときに本格的に競技に打ち込むようになる。下肢障がいの選手によるパワーリフティングだ。この種目の指導者になることも目指していた。
競技を真剣に始めたサバラオレロは、数々の国内大会で優勝し、2008年の北京パラリンピックに21歳で出場、五輪出場の夢を叶えたと同時に、パラリンピックの同種目に出場する初のスペイン人女子選手となった。
サバラオレロは初めてのパラリンピックで7位入賞を果たす。その後、2012年ロンドン、2016年のリオデジャネイロ、2020年東京大会と連続で出場を果たした。五輪以外でも、2016年の欧州大会での金メダルや、2017年と2019年のワールドカップでの金メダルなど、多くの成功を収めた。
写真:Instagram oficial de Loida Zabala (@loidazabala)
その一方で、2012年のロンドン・パラリンピックの1ヶ月前、彼女は元パートナーから性的暴行を受け、右腕を負傷するという不幸に見舞われている。
「被害を訴え出るのはとても難しいことでした。被害の直後は自分の身に起こったことが信じられないし、ましてや愛する人がそういう振る舞いに及ぶとは普通考えませんよね」と、彼女はスペインのテレビ局「アンテナ3」の番組『Más Espejo』で説明している。そうした事件にもかかわらず、彼女はロンドン大会に出場を果たしたのだ。
だが、さらなる試練が待っていた。2023年末、サバラオレロは末期の肺がんと診断されたのである。がんはすでに、肝臓、腎臓、脳などにも転移していた。
写真:Instagram oficial de Loida Zabala (@loidazabala)
それでもロイダ・サバラオレロは夢を諦めず、自身五大会目となるパリ・パラリンピックへの出場を果たしたのである。そのために彼女は、多大な努力をする必要があった。
「ここに来るまでとても大変でした。何ヶ月も犠牲にしました」と、サバラオレロはスペイン政府のスポーツ高等評議会(CSD)会報誌『女性とスポーツ』のインタビューで語っている。「どうやら競技ができそうだと最後に知らされたとき、まるでパラリンピックの出場資格を改めてもらったような気持ちがしました」
パリ・オリンピックでパワーリフティング女子50キロ級に出場したサバラオレロは、順位としては9位に終わった。しかしこの結果は彼女にとっては大勝利だった。 「私はリフティングに三度成功しました。これまでどの国際大会でもできなかったことです」。パリで60キロ、70キロ、75キロのリフティングを終えた後、インタビューで誇らしげにそう語っている。
写真:Instagram oficial de Loida Zabala (@loidazabala)
もちろん、末期がんを診断されてからの道のりはかなり険しいものだった。パラリンピックをわずか8ヶ月後に控えた時点で、彼女の体重は治療の副作用により61キログラムに増えていた。それからは減量だ。医師の監修のもと、厳しいプログラムを開始し、50キログラム級に出場するために一部の薬の服用をやめるという決断を下しさえした。
写真:Instagram oficial de Loida Zabala (@loidazabala)
「(治療を一時中断するというのは)とても難しい決断でした。がんはその間に大きくなるわけですから」と、スペインのテレビ局「Telecinco」のインタビューでサバラオレロは語っている。しかし後悔はないという。「がんの発症が分かり、長くは生きられないと知ってからは、今をしっかり楽しんでいるんです」
「パリにやって来れただけで、私には金賞なんです。大きな達成、ですね。(…)ベンチから体を起こして家族の姿が見えると、こみ上げるものがありました。ここまで来るのはとても大変でしたから」と、サバラオレロはそのインタビューで付け加えている。
そしてパリ・パラリンピックが閉幕した今、サバラオレロは次の夢を追っている。ロサンゼルス・パラリンピックに出場すべく、死力を尽くしているのだ。「2028年大会まで生き残りたい。トレーニングの一つ一つを楽しむつもりだ」と、彼女は力強く語っている。
写真:Instagram oficial de Loida Zabala (@loidazabala)
「まず最初の目標は、2年後に開催される大会でヨーロッパチャンピオンのタイトルを守ること」とした上で、サバラオレロはその先を見据えて次のようにコメントしている。「昨年の調子を取り戻すための時間はある。その後は、できれば2028年のロサンゼルス・パラリンピックまで生き残りたい」
最後に、サバラオレロの言葉をもう少し紹介しよう。彼女は前述のテレビ番組で、「達成したい目標を持つことが、モチベーションを高めてくれる。私は生き残りたい。本当の意味で生きるために」と語っており、またCSDの会報誌では、「夢に全力で集中することで、自分の余命についてあれこれ考えすぎないようになった」とも語っている。
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