歴史をつくったモロッコ:アフリカ勢初のW杯ベスト4進出
12月10日(土)に行われたワールドカップ準々決勝。モロッコが目覚ましい活躍を見せ、2016年の欧州選手権を制した強豪ポルトガルを退けるという偉業を成し遂げた。「アトラスの獅子」の異名をとるモロッコ代表に1-0の勝利をもたらしたのは、ユセフ・エン=ネシリのヘディングシュートだった。
クリスティアーノ・ロナウド率いるポルトガルを破ったモロッコ代表は、アフリカ勢として初めてワールドカップのベスト4に進出した。ほかのアフリカ勢は最高でも準々決勝止まりだったことから、アフリカサッカーの歴史が塗り替えられたことになる。
1990年、カメルーンはアフリカ勢初のベスト8入りを果たした。1次リーグでマラドーナ率いるアルゼンチンを破り、ラウンド16でコロンビアを破った後、次のラウンドでイングランドに敗れたのだ。
その12年後、セネガルが開幕戦で世界王者フランスを破るというセンセーショナルな出来事が起こった。勢いに乗ってグループステージを突破したセネガルは、ラウンド16で欧州強豪のひとつスウェーデンも撃破。しかし、準々決勝の壁は越えられなかった。
2010年、初めてアフリカ大陸で開催されたワールドカップ・南アフリカ大会では、ガーナが大健闘。やはりラウンド16を制して準々決勝に進出したものの、PK戦にもつれこみウルグアイに勝利を献上した。
モロッコがアフリカ勢として初めて悲願の準決勝進出を果たすとは、いったいだれが想像しただろうか?「アトラスの獅子」は今大会まで1次リーグを突破した経験がなく、1998年から2018年までの20年間はワールドカップ本大会出場すら果たしていなかったのだ。
しかも、カタール大会の予選から本大会にかけてモロッコの舞台裏は複雑だった。本大会まで残り3か月を切った今年8月後半にヴァヒド・ハリルホジッチがモロッコ代表監督を解任され、後任としてワリド・レグラギが電撃就任。新監督は全力で戦うことを約束した。
モロッコ代表にはチェルシーのMFハキム・ツィエク(写真)、パリ・サンジェルマンのDFを務めるアクラフ・ハキミ、開幕直前に召集されながらも活躍を見せたFWアナス・ザルリなど、各国リーグで活躍する優れた選手が集まっている。
2022年カタール大会のグループステージを振り返ってみよう。モロッコはグループFで前回のワールドカップで決勝に進出したクロアチア、準決勝に進出したベルギー、そしてレベルの高い選手を多く抱えるカナダと対峙しなければならなかった。
グループリーグの初戦はモロッコ対クロアチア。強豪クロアチアを相手に0-0の引き分けに持ち込んだ。このおかげでグループリーグ突破への望みをつなぐことができた。
そして、モロッコが本領を発揮したのはグループリーグ第2戦だった。黄金世代がいまだ健在なベルギー代表を相手に2-0という完全勝利を収め、グループFで2位につけ、予選突破への道を固めていったのだ。
グループリーグでモロッコが唯一失点を許したのはカナダ戦だった。とはいえ、クロアチアとベルギーが引き分けに終わり、カナダを2-1で下したモロッコはグループ首位で決勝トーナメントへの進出を決めた。
史上初となるワールドカップ第2ステージに進出したモロッコは、グループEを2位で通過したスペインと対決。南アフリカ大会で優勝したスペインと失うもののないモロッコ、互いに無得点のままで90分を終えた。
両チームともゴールが決められないまま延長戦が終了し、PK戦にもつれ込んだ。そしてモロッコはGKヤシン・ブヌの見事なセーブにより相手を3-0で下し、歴史的な準々決勝進出を決めた。
続く準々決勝でも強豪ポルトガルを相手に無失点で勝利を収めたモロッコは、間違いなく今回のワールドカップの主役のひとりといえるだろう。高い守備力とクリエイティブな攻撃をもとに、欧州の代表チームを圧倒する力を見せつけている。
準決勝では、イングランドを下して進出を決めたフランスと対決する。攻撃力の高さで知られる手強いチームであり、かなりの苦戦を強いられることが予想される。ともあれ、モロッコはどんなチームが相手であれ果敢に戦い抜くことだろう。