米バスケットボール界の伝説、デニス・ロッドマンの娘はサッカー界の新星
運動神経は遺伝することから、プロアスリートの子供たちが親と同じスポーツで成功することはめずらしくない。NBAを代表するバスケットボール選手デニス・ロッドマンの娘トリニティもその一人だ。しかし、彼女はバスケットボールのコートではなく、サッカーのフィールドで自分の道を切り開いている。
トリニティはアメリカ女子プロサッカーリーグ(NWSL)のワシントン・スピリットに所属してフォワードとして活躍するほか、アメリカ代表メンバーとして国際大会にも出場している。フィジカルの強さと競争心、練習熱心でチームをつねに勝利に導こうとする精神を父親から強く受け継いでいるようだ。
2023年2月、20歳となったトリニティはワシントン・スピリットと契約を更新し、4年で総額110万ドルのNWSLで最も年俸の高いサッカー選手となった。同じアメリカ代表のスター選手アレックス・モーガンやミーガン・ラピノーを上回る、年間28万1000ドルというリーグ史上最高額を受け取っている。
トリニティは2002年5月20日、カリフォルニア州ニューポートビーチで生まれた。母親はデニス・ロッドマンの3人目の妻ミシェル・モイヤーで、2人は1999年にカリフォルニアのパブで出会い恋に落ちた。トリニティには兄のデニス・ロッドマン・ジュニアがおり、父の足跡をたどり大学バスケで活躍している。
トリニティは4歳でサッカーをはじめ、10歳の時に南カリフォルニア・ブルース・サッカー・クラブ(SoCal Blues)に加入した。彼女が在籍した5年間クラブは無敗を誇り、エリート・クラブ・ナショナル・リーグで4度の全国優勝を果たしている。
サッカー選手として成長し続けたいという思いから、トリニティはまずはUCLAブルーインズ、さらにワシントン州立大学クーガーズに加入した。しかし、コロナ渦で大学リーグの開催が中止となり、1試合もプレーすることができなかった。
2021年、トリニティは大学卒業を待たずプロ入りすることを決意した。その結果、アメリカ女子サッカープロリーグ(NWSL)の新人ドラフトでワシントン・スピリットから全体2位で指名され、リーグ史上最年少でドラフトされたサッカー選手となった。
ワシントン・スピリットでの公式デビューは4月10日、NWSLチャレンジカップ2021のノースカロライナ・クラージュ戦だった。トリニティは、選手交代でピッチに入り、わずか5分後に初ゴールを決めていた。
最終的に22試合に出場し7得点を挙げ、ワシントン・スピリットでリーグタイトルを獲得したトリニティ。さらにシーズン終了時には3つの選手賞も獲得。NWSL2021の年間最優秀新人賞とベストイレブン、そしてアメリカサッカー連盟の女子最優秀選手だ。
トリニティの当時のコーチ、クリス・ウォードはアメリカのスポーツ専用チャンネル「ESPN」でこう語っている:「トリニティは競い合うことに生きがいを感じる選手です。敵のプレッシャーや接近戦に負けない身体能力、そしてチームの勝利に貢献したいという熱意が素晴らしい。ゲームチェンジャーとなる、これまでにない選手です」
さらにこう続けた:「トリニティはすぐにレベルを引き上げ、このリーグの未来への扉を開けてくれました」トリニティは100万ドルの契約にサインした後、「私は若い選手たちの道を拓き、ベテランの選手たちにはあるべき姿を示したいと思っています」と語っている。
多くのサッカー評論家は、トリニティの目覚ましい活躍を前にしてもそほど驚きはしなかった。なぜならジュニア時代、そしてウルグアイで開催されたFIFA U-17女子ワールドカップですでに頭角を現していたからだ。165分の出場時間で得点こそなかったものの際立った才能を印象付け、アシストも記録した。
2020年に開催された北中米カリブ海サッカー連盟が主催するCONCACAF U-20選手権でもトリニティは圧巻のパフォーマンスを披露した。ホンジュラスとの一戦で4ゴール、メキシコを4-1で下した決勝戦で2ゴール、合計9ゴールを挙げてアメリカの優勝に貢献している。
2022年1月、トリニティはアメリカ女子代表の合宿に初招集された。正式デビューは2月17日、毎年米国で開催される女子サッカーの国際試合、「シービリーブカップ2022」におけるチェコ戦だった。
デビュー戦からわずか2ヵ月後に、トリニティは代表戦初ゴールを決めた。2022年4月、自身3度目の代表戦にあたるウズベキスタンとの親善試合で初ゴールを決めたほか、米代表は9-0という圧倒的な勝利を挙げた。
2022年6月、CONCACAF女子ゴールドカップ2022に臨む代表チームに招集され、アメリカの優勝に大きく貢献したトリニティ。キャリア初となるトロフィーを得て、20歳の誕生日を迎える頃にはすでに代表チームの主力選手のひとりとしての地位を確立していた。
トリニティのFIFA女子ワールドカップデビューは、グループステージのベトナム戦だった。しかし、大会の優勝候補とされていたアメリカは、ベスト16でスウェーデンに敗れてしまう。
ワールドカップに向けた壮行試合、ウェールズとの親善試合で、トリニティは試合の後半にアレックス・モーガンに代わり投入され2得点を挙げた。これはアメリカ代表の最年少記録で、「プレーヤーズ・オブ・ザ・マッチ」にも選ばれている。
ソーシャルネットワークを積極的に活用するトリニティ。特にインスタグラム(@trinity_rodman)では27万人以上のフォロワーを抱え、プライベートに関する近況報告やサッカーにおける活躍ぶりを投稿している。
親の七光りではなく、自身の活躍で知名度を上げたトリニティは、アディダスやデオドラントのブランド「Degree」などのキャンペーンに起用されるなど、大手スポーツブランドから高い注目を集めている。
バスケット界のスーパースターを父親にもつトリニティが、なぜサッカーの世界へ飛び込んだのだろう?ESPNのインタビューでこう語っている:「バスケットボールは得意なのですが、居心地が悪かったです......ドリブルは好きではないし、バスケットの中にうまくボールを収めることもできませんでした」
さらにこう続けた:「ただ楽しむだけのスポーツに納得できなくなったとき、自分がしたかったことはサッカーだと気づいたのです......そして、夢中になれるこのスポーツに全力で取り組みたいと思いました」
トリニティはESPNとFIFAのWEBサイトでこう語っている:「父の偉業を超えようとしているわけではありません。ただ自分自身の物語を築きたいだけです。今のところ、順調にいっていると思います」偉大な父親の名を背負った若きトリニティは、女子サッカーの歴史を作りつつある。