米女子プロレスラーの星、「チャイナ」の栄華と盛衰

ジョアン・マリー・ローラー、またの名をチャイナ
波乱万丈の人生
苦難に満ちた幼年時代
プロレスでサクセス
数々のタイトルを獲得
全盛期
革命的レスラー
『プレイボーイ』に登場
結果は上々、だが……
WWF脱退
リングの外でのキャリア
新日本プロレスにも参戦
キャラクター利用権を握るWWE
流出事件
依存症問題
成人向け映画に出演
重なる逮捕
悲劇的な最期
殿堂入り
女子レスラーの道を開く
ジム・ロスによる称賛
「すべての女性たちのための道を敷いた」
ジョアン・マリー・ローラー、またの名をチャイナ

ジョアン・マリー・ローラー、またの名をチャイナはアメリカプロレス界の伝説であり、男性に支配されていた業界で女子プロレスラーとして活躍、後進に先鞭をつけた存在だ。

The Daily Digest をフォローして世界のニュースをいつも手元に

波乱万丈の人生

だがそんな彼女の人生は輝かしいことばかりではなく、依存症や個人的な問題に悩まされたり、毀誉褒貶も絶えない。偉大なレスラーの軌跡を振り返り、その業績をチェックしてみよう。

苦難に満ちた幼年時代

チャイナは1969年、ニューヨーク州ロチェスター出身。幼年時代から家庭環境には問題が多く、アルコール依存症に苦しむ父親やそれに起因する離婚など多くの騒動があった。その結果、チャイナはそういった悩みや苦しみから逃れるようにしてボディビルディングに励み始めた。2001年に『ピープル』誌のインタビューでチャイナはこう語っている:「いつも同年代の女の子より体が大きく、そのことでからかわれてきました。ボディビルを始めたことで自分の体に自信が付き、自分を受け入れられるようになりました」

プロレスでサクセス

そうしてボディビルに励んでいたところ、1990年代半ばに、プロレス界の辣腕プロモーターであるビンス・マクマホンに見出された。マクマホンはチャイナの身体能力や独特な風貌にポテンシャルを見出し、1997年、自身が代表を務めるプロレス団体WWF(現WWE)にスカウト。チャイナはその驚異的なパワーと優れた身体能力ですぐに人気を獲得し、「世界9番目の不思議」として大々的にプロモートされた。

画像: YouTube @WWE

数々のタイトルを獲得

競争の激しいプロレス業界だがチャイナはそこで名を挙げ、すぐにイベントに引っ張りだことなった。そのキャリア中に達成した業績や勝ち取ったタイトルは数多い。中でも名誉なのはWWE主催のトーナメント「キング・オブ・ザ・リング」に女性として初参加したことや、女性初のインターコンチネンタル王座獲得などだろう。それにくわえてWWF女子王座も獲得している。

画像:YouTube @WWE

全盛期

チャイナの全盛期は1990年代後半から2000年代初頭。WWEのイベント「ロイヤルランブル」に女性として初めて参戦したのも、インターコンチネンタル王座を獲得したのもこの頃だ。ほかにも、トリプルHやエディ・ゲレロなどほかのレスラーとタッグを組んで様々な有名選手と対戦したりもした。

画像:YouTube @WWE

革命的レスラー

前WWEアナウンサーのジャスティン・ロバーツはチャイナのリング上での活躍について、2017年に『Vice』誌にこう語っている:「チャイナはリング上で男子選手と闘っていたのみならず、男子選手相手に勝利してもいました。彼女は当時男子選手しかやらないようなこともやっていましたし、私の知る限りチャイナのあとにそういうことをした女子選手はいないはずです。彼女のしたことはほんとうに信じがたい。まさにレスリング界の革命児でした」

『プレイボーイ』に登場

2000年、WWFでの活躍全盛期にチャイナは『プレイボーイ』誌の表紙を飾り、同紙に登場した初の女子レスラーとなった。このことは、女子レスラーの限界を押し広げ続けたチャイナにとってまさに金字塔というべき出来事となった。チャイナはこのことをステレオタイプ的な美意識に対する挑戦とみなし、いままでとは違った形で自らの身体を肯定することができたと語っている。

結果は上々、だが……

『プレイボーイ』誌への登場は大成功で、その号は100万部以上の売上を記録しチャイナのセクシー路線も盤石にした。だが、同時にこれによってWWFとの間に緊張関係が生まれもした。代表のマクマホンはチャイナが『プレイボーイ』誌に登場することを快く思わなかったのだ。翌年のチャイナのWWF脱退もこの『プレイボーイ』問題が一因となってのことだった。

WWF脱退

このようにWWF時代のチャイナは多くを成し遂げたが、そこにはさまざまな負の側面もあった。2001年、チャイナはWWFとの契約継続に失敗し脱退に至ってしまう。脱退の本当の理由についてはいまだに議論が絶えないが、『プレイボーイ』問題やトリプルHとの確執、依存症問題、契約金をめぐる問題などが絡み合っていたとみられている。

リングの外でのキャリア

WWFから脱退したチャイナはプロレスとは異なるキャリアを模索し始める。たとえばチャイナはいくつかのリアリティ番組に出演、何度も美容整形を受ける様子などが映されている。

The Daily Digest をフォローして世界のニュースをいつも手元に

新日本プロレスにも参戦

また、WWFとは違う団体でプロレスキャリアを再開しようと試みたこともある。2002年には新日本プロレスに登場したし、2011年にはアメリカのプロレス団体TNA(現インパクト・レスリング)にも登場。だがそういった団体での活躍はいまひとつ振るわなかった。2015年にはWWEに一時的に復帰し、同団体の番組『レジェンズ・ウィズ・JBL』に出演。だがWWEはチャイナを再び現役レスラーに戻そうとはしなかった。

キャラクター利用権を握るWWE

『Viceスポーツ』によるビデオ・インタビューによると、チャイナはその「チャイナ」というリングネームや「チャイナ」というキャラクターに少しでも関連するようなものはすべて使用を禁止されたという。これはすなわち彼女のキャリアのすべてを否定されたようなものだった。WWEは「チャイナ」というキャラクターに対して、いわばマーベルやDCなどのコミック会社が自社のキャラクターに対して取るような態度を取ったわけだ。このように「チャイナ」というキャラクターの所有権を握られてしまうと、WWFの外での活動は大幅に制限を受けることとなってしまった。

流出事件

2004年にはチャイナと当時の恋人ショーン・ウォルトマン(リングネーム:Xパック)とのあいだの性行為を収めた動画がオンラインで流出。チャイナは後にこの出来事を振り返って、これ以降ファンや関係者から好奇の目で見られたり批判されたりすることが増え、自分の人生・キャリア双方における重大な転機となったことを明かしている。

依存症問題

残念なことに、それ以降もチャイナの私生活は苦しいものが続いた。チャイナは薬物の依存症に苦しみ、しばしば公衆の面前で奇矯な振る舞いをしてしまい紙面を騒がせた。2008年には有名人が依存症の治療を受けるという企画のリアリティ番組に出演、自らの問題を広く伝えようとした。その番組でチャイナは、長年のあいだ薬物とアルコールの依存症に苦しんでいることを明らかにした。

成人向け映画に出演

『Vice』誌によるとチャイナは2009年から2011年にかけてヌードを売りにしたり5本の成人向け映画に出演したりした。その映画は2009年から2013年にかけて公開されたという。

2000年代に抱えていた問題について、チャイナはコメディアンのジム・ノートンに次のように語っている:「まるで自分が怪物になったようでした。そこから脱することができなかったんです」

重なる逮捕

治療の努力もむなしく、チャイナは依存症に苦しみ続け、ますます異様な行動をとるようになってきていた。暴行や飲酒運転で何度も逮捕され、メディアに出演することはどんどん稀になってきた。

悲劇的な最期

2016年4月20日、チャイナが自宅で死亡しているのが発見された。46歳だった。後に判明した死因は処方薬とアルコールを意図せず過剰摂取してしまったことだという。偉大な業績を達成しながらも苦しみ続けたチャイナの、悲劇的な最期だった。

画像:YouTube @WWE

殿堂入り

2019年、チャイナはかつてトリプルHらと組んでいたユニット「D-ジェネレーションX」名義でWWE殿堂に迎えられ、チームとして殿堂入りした初の女性レスラーとなった。

女子レスラーの道を開く

私生活には多くの問題があったとはいえ、チャイナが女子レスラーとして先鞭をつけたおかげで多くの障壁が取り払われたことも事実。チャイナ以前は女子レスラーはただ「目の保養」としてしか扱われていなかったが、チャイナの活躍によって女性の持つパワーや身体能力に対する観衆の態度も変わり、男性優位になりがちなプロレス界においても女性が活躍する余地があることを証明して見せた。

ジム・ロスによる称賛

チャイナは世界中のプロレスファンの記憶に深くきざまれているが、同輩のレスラーたちは公式に彼女との関係について語ることはあまり多くない。それでも、プロレス界におけるチャイナの親友の一人であった前WWE解説者ジム・ロスは彼女がプロレス界に及ぼした長期的な影響についてはっきりと語っている。

「すべての女性たちのための道を敷いた」

ロスは2020年、自らのポッドキャストでチャイナの業績を総括して次のように述べた:「チャイナは世界的な規模で活躍しました。これは他のどんな女性にもできなかったことです。どんな会社で働き、いくら稼ごうと、他の女性たちはただチャイナを振り返って感謝することしかできないはずです。チャイナこそ、そういった女性たちがいま歩んでいる道を拓いた人物なのですから」

The Daily Digest をフォローして世界のニュースをいつも手元に

ほかのおすすめ