アスリート150人以上が被害に:スポーツ医師ラリー・ナサールが性的虐待が暴かれる

スポーツ医学の権威、ラリー・ナサール
禁固175年
体操連盟のチームドクター
トップ選手を担当
周囲の人々の反応
一通のメール
「腰の治療という名目」
無視され続けた経験
弁護士として立ち上がる
捜査がスタート
児童虐待に関する画像の所持
さらなる被害者たち
156件の告発
シモーネ・バイルズ
スポーツ界に蔓延する性的虐待
犯行を認めた被告
「被告人の社会的な死に署名」
3億8000万ドルの和解金
消えない後遺症
スポーツ医学の権威、ラリー・ナサール

かつてはスポーツ医学の権威として知られていたものの性的虐待事件で有罪となり、現在は服役中のラリー・ナサール。ふたたび医学の知識を活かすときがやってきたが、それは刑務所で自身が受けた刺し傷の手当てだった。

 

禁固175年

ナサールを刺したのはフロリダ刑務所に収容されている別の囚人だった。少女150人あまりに対する性的虐待および、児童虐待に関する画像所持の罪で禁固175年の判決を受けたナサールは現在、同刑務所で服役中だ。

 

体操連盟のチームドクター

この事件で気がかりなのは、ナサールが20年以上にわたって米体操連盟のチームドクターを務めており、そのことを利用して犯行に及んでいたという点だ。

トップ選手を担当

仕事ぶりが評価されたナサールは体操界の要として昇進、トップアスリートを担当していた。

周囲の人々の反応

ナサールの犯行を訴える少女たちは無数にいたが、体操界で尊敬を集めるこの男がそんなことをするはずはないと、周囲の人々は告発を信じようとしなかった。そして、このことが被害の拡大につながってしまった。では、一体どのようにして事件が明るみに出ることになったのだろう?

一通のメール

事件発覚のきっかけとなったのは、2016年3月に被害者の1人、レイチェル・デンホランダーが『インディアナポリス・スター』紙に宛てた電子メールだった。同紙は以前に、米体操連盟における性的虐待疑惑について対応が不適切だとする記事を掲載していた。

「腰の治療という名目」

同紙が伝えたところによるとそのメールにはこう書かれていたという:「『アウト・オブ・バランス』という記事を拝読しました。私の体験は貴紙の調査に役立つものではないかもしれませんが、関係があるかもしれないと思い、メールさせていただきました。私はコーチから性的虐待を受けたことはありません。しかし、米体操連盟(USAG)のチームドクター、ラリー・ナサールから性的虐待を受けました。当時、私は15際で、腰の治療という名目でした

無視され続けた経験

デンホランダーも他の被害者同様、ナサールによる犯行を告発したことはあったが、コーチやマネージャー、警察に相手にしてもらえなかったことから、告発メールによって事態が動くとは期待していなかったようだ。

 

弁護士として立ち上がる

しかし、成人したデンホランダーは現在、弁護士として活動しており、チームドクターの虐待を明るみに出すため、実名で公の場に立つことをためらわなかった。半年あまりにわたって、独りでキャンペーンに取り組むことにしたのだ。

捜査がスタート

2016年11月には、FBIがナサールを13歳未満の少女に対する3件の第1級性的暴行罪の容疑で逮捕、捜査を開始した。このときの保釈金は100万ドルだったが、事態は悪化の一途をたどることになる。

 

児童虐待に関する画像の所持

さらに、ナサールは児童虐待に関する画像・映像を数千点所持していたことが発覚。『インディアナポリス・スター』紙の報道によれば、そのなかには12歳未満の被害者の画像もあったという。

さらなる被害者たち

時とともに、ナサールから過酷な性的虐待を受けたと証言する女性たちが相次いぐことに。その多くは、ナサールが米体操連盟のチームドクターとしてミシガン州立大学に籍を置いていた20年あまりの出来事だったという

156件の告発

2018年までに156人の被害者が名乗り出て証言を行っている。そのなかには、ギャビー・ダグラス、マッケイラ・マロニー、アリー・レイズマン、ジョーディン・ウィーバー、シモーネ・バイルズといった体操界のスターたちの名前があった。

シモーネ・バイルズ

ナサールの被害者のなかでも著名なシモーネ・バイルズは、まずTwitterのMeTooハッシュタグで被害を発信:「気持ちが壊れてしまったように感じることもありましたが、心の声を圧し殺そうとするのは逆効果でした。でも、今なら自分の体験を堂々と話すことができます」

 

スポーツ界に蔓延する性的虐待

CNN放送によれば、156人の被害者女性たちは2018年に法廷で証言を行なったという。証言によると、スポーツで負傷し診察を受けに訪れた選手に対して、ナサールは性的虐待を行ったうえ治療の一貫だと嘘の説明をしていたとのこと。

 

犯行を認めた被告

ナサールはチームドクターとしての地位を悪用し少女たちに性的虐待を行っていた事実を認め、ミシガン州で行われた7件の性犯罪で有罪となり、禁固175年の判決を受けた。

 

「被告人の社会的な死に署名」

CNN放送が伝えたところによると、ローズマリー・アクイリナ判事は判決を言い渡す際、「わたしはたった今、被告人の社会的な死に署名しました。被告人には自分が危険人物だという意識がないようですが、依然として危険なのです」と述べたという。

3億8000万ドルの和解金

2021年、ナサールの被害者およびその家族の計500人あまりが、虐待に関する報告や対応を怠ったとして米体操連盟、米国オリンピック協会および保険会社を提訴。3億8000万ドルの和解金で示談に達している。

消えない後遺症

レイチェル・デンホランダーは2021年12月9日、「正義が最大限なされたのは喜ばしいことです。しかし、虐待被害の後遺症が一夜にしてなくなったわけではありません。裁判の結果に浮かれるあまり、そのことを忘れないようにしてください」

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