試合中に命を落とした(あるいは落としかけた)アスリートたち
トップアスリートとして第一線で活躍を続けるには大きな犠牲を払わなくてはならない。膨大な時間をトレーニングに費やし身体的にも精神的にも己を高めるなど、人生すべてをスポーツに捧げなくてはならないのだ。そして、このことは時に悲劇をもたらす原因になってしまうことがある。
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アスリートたちが直面するリスクとして最も一般的なのはケガだ。2011年にメキシコのグアダラハラで行われたパンアメリカン競技大会に参加したブラジル代表チームのプロ30人を対象に行われたインタビュー調査では、あらゆるリスクの原因はアスリートたちの行動と密接な関係があることがわかった。具体的には「トレーニングのし過ぎや間違ったテクニック、不適切な食事」などがこれに当たる。
また、専門誌『Sports Medicine Open』に掲載された研究によれば、ケガやスランプ、トレーニングのし過ぎ、個人競技における孤独感などが、精神面でのリスクにつながることもあるという。
しかし、その他の健康リスクについてもさらなる分析が必要だ。『British Journal of Sports Medicine』誌の研究でも述べられている通り、高強度の運動に取り組む人々が循環器系に負うリスクはいまだ詳らかになっていないのだ。そして、試合中にファンが見守る中でこのようなリスクが表面化してしまうことも珍しくない。
最近、議論の的となったケースとしては、試合中に失神したNFLのダマー・ハムリン選手(24)が挙げられる。一見、試合中に通常のタックルを行っただけだったが、そのまま心停止に陥ってしまったのだ。幸い、救護スタッフは彼をその場で蘇生させることができた。
1960年、ニューヨーク・タイタンズの選手としてプライムタイムゲームに出場した後、死亡したハワード・グレン。首に損傷を受けており、フィールドを離れた後もイベント中ずっと痙攣を訴えていたという。しかし、コーチはその日の試合が原因だったのか、以前の試合によるものか判断できなかったという。
デトロイト・ライオンズのワイドレシーバーとして活躍したチャック・ヒューズ。1971年10月、当時28歳だったヒューズはハドル(作戦会議)に戻る途中で昏倒。『The Philadelphia Inquirer』紙によると、ヒューズの動脈には血栓ができていたという。医師たちはその日のうちに死亡宣告を下した。
1998年、スタンレー・カップのプレーオフ中に危機一髪に陥ったクリス・プロンガー。パックの直撃を胸に受けたプロンガーは起き上がって歩き出したものの、すぐに倒れてしまったのだ。およそ20秒間にわたって失神していたが、その後意識を取り戻し、4日後にはすっかり回復した。
MLBのジョン・マクシェリー主審はシンシナティでの開幕戦の最中、心臓発作に襲われた。体調不良を訴え、審判交代を要求した直後、よろめきながら芝の上に倒れてしまったのだ。蘇生措置がとられると同時に病院への搬送が試みられたが、到着時にはすでにこと切れていたという。享年51。
1912年から1920年までクリーブランド・インディアンスの遊撃手として活躍したレイ・チャップマン。試合中、ニューヨーク・ヤンキースのカール・メイ投手が投げたボールが頭を直撃。ボールが埃まみれだったためによく見えず、よけることができなかったのだ。審判はチャップマンが耳から出血していることに気づき試合をストップしたが、数時間後に脳挫傷でこの世を去ってしまった。インディアンズはこの年のワールドシリーズを制覇、亡きチャップマンに優勝トロフィーを捧げることとなった。
長年にわたって安全規則の更新を行ってきた野球界だが、選手に降りかかるリスクがなくなったわけではない。2022にはサンディエゴ・パドレスのジュリクソン・プロファーがジャイアンツ戦の最中にチームメイトと衝突。直ちに病院に運ばれ、脳震盪の診断が下ったが、その後すっかり回復している。
ウェブサイト「ESPN」 は、ロヨラ・メリーマウント大学のバスケットボール選手、ハンク・ギャザーズが昏倒・死亡した事件について、とてもショッキングだったと伝えている。ギャザーズは心臓発作にともなう合併症の治療を受けたものの、回復することはなかった。元チームメイトで友人のボー・キンブルはギャザーズに敬意を示すため、試合のたびに最初のフリースローを左手で放ったという。
欧州選手権2022のフィンランド戦の最中、サイドライン付近でスローインを待っていたクリスティアン・エリクセンが突如、失神。チームメイトたちが不安げに見守る中、コーチはエリクセンに心肺蘇生を施した。その後、容体が安定したため、両チームの合意により1時間後にゲームが再開されることとなった。
スペインのセビージャFCで左サイドミッドフィルダーを務めていたアントニオ・プエルタ。セビージャFCが絶好調だった2007年、ヘタフェCFとのリーグ戦の前半にプエルタは倒れてしまう。その後、昏睡状態に陥り、そのまま息を引き取ってしまった。
ルートン・タウンFCの主将を務めるトム・ロッキャーは2023年に2度のアクシデントに見舞われている。1度目は5月に行われたEFLチャンピオンシップ昇格プレーオフ中の心臓発作、2度目は12月に行われたAFCボーンマス戦での昏倒だ。メディア各社によれば、その後の容体は安定しているとのこと。
2021年のマイアミ・オープンで試合中に失神したテニス選手のジャック・ドレイパー(19)。セットの早い段階で心拍数チェックを受け、具合が悪い様子を見せていたが試合の続行を決めた。
ハンガリーのブダペストで開催されたFINA世界水泳選手権で、ソロ演技中だったアメリカ人シンクロ選手アニータ・アルバレスが失神。コーチのアンドレア・フエンテス自らプールに飛び込んでアルバレスを救出、後にライフガードの対応が遅かったことを批判した。
スポーツ選手をとりまく環境の改善に向けた取り組みが、ますます盛んになりつつある昨今。2022年には国際オリンピック委員会が、アスリートたちの身体的・精神的健康を守るための長期研究プロジェクトを開始、ここでご紹介したような事故を過去のものとすべく努力している。
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