2026年サッカーW杯に暗雲:開催が危ぶまれる原因とは
次回のワールドカップも2026年と再来年に迫ってきたが、それにつれてさまざまな問題も表面化してきている。開催国であるカナダ、アメリカ、メキシコが抱える問題をチェックしてみよう。
後で取り上げる問題に比べれば些細なものだが、無視するわけにも行かないのが競技におけるホスト国の実力だ。FIFAランキングではアメリカは16位、メキシコは17位、カナダに至っては40位と、どの国もトーナメント戦で目立った成績を残すことは難しそうな位置にある。この状態では試合に盛り上がりが欠けてしまうかもしれない。
より大きな問題は財政だ。スタジアムや公共交通機関の整備には巨額の費用がかかる。カナダにおける開催地のひとつ、ヴァンクーヴァーでローカルニュース「CityNews」が地元住民に、大会費用についてどう思うかとインタビューしたところ、ある市民はこう語っていた:「FIFAの大会よりも、住民を援助することに力を注いだほうが良いと思います」
「CityNews」はほかの住民にもインタビューを行っているが、多くの市民が同じような意見を表明している。住宅費の高騰など喫緊の課題を多数抱えていながら、なぜFIFAやワールドカップに予算を費やす必要があるのか、というものだ。
こういった意見に対して、ブリティッシュコロンビア州観光・芸術・文化・スポーツ担当のラナ・ポファム氏はこう述べている:「ご理解いただきたいのですが、予算が明らかになったら、喜んで皆さんと共有いたします。完全な透明性を目指しておりますので」逆に言うと、担当者でさえ、2年前になってもワールドカップにかかる費用の全体像を把握できていないということでもある。
ポファム氏はこう続けている:「当初は7試合開催するとは想定していなかったので、5試合ぶんで算定した警備費用その他の予算をすべて2試合ぶん増やす必要が生じています。なので、いまはその数字を再計算しているところです」これはあまり安心できる情報とは言えなさそうだ。
ヴァンクーヴァーの「CityNews」によると、同市における開催費用は2022年時点で1億9,000万ドル(約267億円)と見積もられていたが、インフレなどの理由により想定を大幅に超過する見込みだという。トロント市における開催費用は2億8,000万ドル(約395億円)以上となるとみられている。
アメリカは公共交通機関があまり整っていない。どのスタジアムにも巨大な駐車場が付属していて、試合のたびにファンの自家用車が列をなす。アメリカのスポーツ文化はそういうものだと言ってしまうのは簡単だが、世界各国から無数のファンがアメリカ各地に応援に駆けつけるとなれば、このようなインフラ事情では困難が予想される。
2024年にアメリカで開催されたコパ・アメリカでは実際にこの問題が浮き彫りとなった。『ガーディアン』紙のバーニー・ロネイ記者はこう書いている:「公共交通機関が整備されていた土地でも問題は起きた。ニュージャージーでは、観客は動かない電車や信頼できないバスに悩まされ、その結果、メットライフ・スタジアムで行われた2試合では多くの観客が時間通りにたどり着けなかった」
ロネイ記者も指摘するように、メットライフ・スタジアムではワールドカップの決勝戦が行われる予定になっている。だがそこにつながる交通機関は「1時間あたり1万2,000人の観客を運送できるように設計されている。一方、メットライフ・スタジアムは最大8万2,000人収容可能だ」このままでは、公共交通機関の問題で決勝戦のオープニングイベントに間に合わない観客が続出することは必至だ。
カンザスシティのGEHAフィールド・アット・アローヘッド・スタジアムも同じくワールドカップの試合が開催される予定となっているが、この地も「ほとんど公共交通機関が機能していない」ことで有名だ。2024年コパ・アメリカでのアメリカ対ウルグアイ戦では駐車場の渋滞が数時間続く事態となっていた。
たとえ時間通りにスタジアムにたどり着けたとしても問題は残っている。コパ・アメリカの準決勝、ウルグアイ対コロンビア戦ではサポーターらがスタジアムに不法に押し入ろうとしたり、サポーター同士の口論が発生したりと、ファンの統率という観点から見苦しい事態が相次いだ。
2026年のワールドカップが開催される時期のアメリカは夏真っ盛りだ。気温は38度を軽く超え、湿度も高くなる。過去の大会でもあったように、試合中に給水用の休憩時間(ウォーターブレーク)をもうける必要があるかもしれない。
北米大陸の国々ではホームレス問題が危機的なレベルにある。統計情報サイト「USAFacts」によると、65万人ものアメリカ人が定まった住所を持てていないという。オリンピックなどの開催に際して、多くの国はただホームレスの人を移送して見えなくすることで解決してきた。だが、ロサンゼルスのカレン・バス市長は2028年のロス・オリンピック期間中にはそのような一時しのぎの方策は採らないことを公約としているため、ワールドカップでもそうなる可能性がある。だが、だからといって問題がうまく解決される保証もない。
『ロサンゼルス・タイムズ』紙によるとバス市長は、ホームレス向けのキャンプを撤去し、モーテルやホテルの部屋を一時的に提供する計画を立てているという。だが、同紙の取材に応えたカリフォルニア大学ロサンゼルス校のゲイリー・ブラジ教授は2028年のロス・オリンピックについてこう語っている:「一部屋たった105ドル(約1万5,000円)で部屋を貸すモーテルオーナーがいるとは思えません。世界中から観客がやってくるんですから」
もちろんワールドカップが成功裏に終わってくれるに越したことはない。だが、『ガーディアン』紙のバーニー・ロネイ記者も言うように、そう確信するためには観客が時間通りにスタジアムにたどり着き、暑さにも対処できるような方策をはっきりと提示して欲しいものだ。それに、最高レベルのセキュリティをどう実現するのかも早急に示してもらわないと、2026年のワールドカップはFIFA及び北米諸国にとって残念な結果になると予測せざるを得ない。